俺の名前はタケシwww まあ、普通の高校生なんだけど、基本ノリが軽すぎてヤバいんだわwww ほぼ毎日「www」つけて喋ってるのがクセになってて、友達からは「お前、落ち着けよwwww」って言われるけどさ、俺にとってはそれが普通www
何がおかしい?www
で、そんな俺には幼馴染のユイがいるんだ。
ユイはマジで真逆www クールで無表情、話しかけてもたいてい無反応www
でもなんか、不思議と居心地がいいんだよな。
学校の廊下で、俺がいつもの調子でさ。
「今日も最強にヤバくね?www」
とか言っても、ユイはただじっと俺を見るだけで。
「……別に」
とかそんな感じで返す。
俺は。
「え、なんでそんなに冷たいんだよwww」
ってツッコむけど、それがまた面白くて笑っちゃうんだわwww
ユイは派手じゃないけど、芯が強くて何考えてるか掴めないミステリアスなタイプ。
でも、たまにだけど、俺のふざけたことにちょっとだけ笑ってくれるんだよな。それが最高に嬉しくてwww
俺はいつも調子乗ってばっかで、真面目な話なんて苦手www
だけどユイはそんな俺を黙って見守ってくれてる。
その存在が、俺にとっては何よりも大事だったんだわwww
俺はバカだから、そんなユイのことを笑わせたくて、無理やりふざけてみたりするんだよwww
それでちょっとでも反応があると、
「お、効いてるwww」って感じでまた調子に乗る。
ああ、ほんと俺ら、最強のバカコンビだわwww
ユイはクールで暗めって言ったけど、実は結構繊細なんだよなwww
ある時、教室の隅で一人ぼーっとしてるのを見かけて、俺は。
「おい、何してんだよwww」
って声かけたら、ユイはポツリと。
「別に…⋯なんにも」
ってだけ返してきた。
まあ、そんなんでも俺は全然気にしねえwww
「そうかそうか、じゃあ今日は俺のギャグ大会だwww」
って勝手に盛り上がって、周りのやつらも巻き込んで笑わせまくったわwww
それが俺らのいつものスタイルで、ユイは無反応でも、なんとなく楽しんでくれてると思ってたんだよwww
でも、そんな日々が続く中で、ユイの様子に少しずつ変化が現れてきた。
いつもよりも疲れてるのか、声がかすれてたり、時々目を伏せてたり。
俺は気づいてたけど、そんなの絶対に認めたくなかったんだわwww
だって、病気なんて言葉は俺の世界にはなかったし、ユイはいつもクールに俺を受け止めてくれてたから。
だから俺は相変わらず「www」全開で、大丈夫だって!俺がいるからwwwって無理やり笑わせようとしてたんだよなwww
高校になっても、俺の「www」スタイルは健在だwww
まあ、クラスのみんなからは「またかよwwww」って呆れられてるけど、俺的にはこれが素なんだわ。
で、ユイも同じ高校に進学してきたんだけど、相変わらずのクールさでさ。
教室の隅で、無表情で本読んでる姿はまじで氷みたいに冷たいwww
でも俺はそんなユイが好きなんだよなwww
初日、俺は調子に乗って「よっしゃ!新学期も全開で笑っていこうぜwww」って言ったら、ユイは軽く目を細めて、
「……相変わらずだね」
とだけ言った。
それだけで、なんか嬉しくなった俺は、またバカみたいにふざけ続けたわwww
友達は俺の「www」多すぎるノリを心配してたけど、俺は気にしねえwww
だってユイがそばにいるんだから、何とかなるだろwww
そんな調子で始まった高校生活は、まあいつも通りって感じだったけどwww
入学式の日さ、校庭は新しい制服に身を包んだ生徒たちで溢れてた。俺はテンション爆上げで、校門前で「よっしゃー!俺らの時代が始まったぜwww」って叫びまくってたけど、周りは完全に白い目だわwww
そんな俺の横で、ユイはいつも通りの無表情で黙って立ってた。
でもよく見ると、制服の袖をギュッと握りしめてて、まるで何かをこらえてるみたいだったんだよな。
最初の授業は緊張しそうだったけど、俺は相変わらず調子に乗りまくりで、周囲を笑わせようとしてた。
「え?そんな授業退屈すぎん?俺のギャグで笑わねえとかマジでありえねえwww」って感じで、席の後ろの奴らにも声かけまくったんだわ。
ユイは、そんな俺をチラリと見て、ほんの少しだけ目が細くなった気がした。
相変わらずって声が聞こえた気がして、俺はマジで救われたような気分になったんだわwww
放課後、みんなで廊下で騒いでたら、ユイが突然ぽつんと俺のそばに来て、
「タケシ、あんまり騒ぎすぎないでよ」
って言った。
マジでびびったwww
あいつがこんな風に普通に話しかけてくるの、珍しすぎて心臓バクバクだったわwww
「お、どうした?www 今日は調子いいのか?」
ってからかうと、ユイは無表情のままだけど、少しだけ口元が緩んだ気がしたんだ。
その瞬間、俺は思った。
「これからも、こんなふざけた俺を受け入れてくれるのはユイだけなんだ」ってwww
そう思えたことが、なんだか心の支えになって、俺はまた明日も「www」全開で行こうって決めたんだわ。
高校生活にも少しずつ慣れてきた頃、俺はいつもの調子で教室の中心にいたわけwww
廊下でクラスメイトとじゃれあったり、
「この教科書、ページ開いたら寝落ちする呪いでもついてんのか?www」
とか、意味不明なこと言ってみたりwww
でも、そういうバカなこと言いながら、目はずっと教室の隅にいるユイを追ってた。
あいつは、入学してからも相変わらずで、一人で静かに本を読んでたり、窓の外をぼーっと眺めてたりしてた。
けど、俺にはわかるんだわwww
そういう時間が、ユイにとってめちゃくちゃ大事なんだってwww
静かにしてるからって、何も感じてないわけじゃないんだよな。
むしろ、誰よりもちゃんと周りを見てるし、誰よりも感情を抱えてる。
昼休み、俺はいつも通り購買でパン買って戻ってくると、ユイの席の隣に勝手にドカッと座って、
「見ろよwww また焼きそばパンと間違えてジャムパン買ったわwww マジでジャムの呪いかかってるwww」
って一人で騒ぎまくってた。
ユイは本から目を上げて、
「……知らない」
とだけ言って、本に視線を戻した。
でもな、俺は見逃さなかったぞwww
その口元、1ミリだけ笑ってたんだよwww
「ほらなwww 俺のギャグ、完全にツボってるやんけwww ユイもやっと笑いのセンス追いついてきたなwww」
俺がそう言うと、ユイはちょっとだけため息をついて、
「……うるさい」
って。
でも、その声にはどこか優しさがあった。
それだけで、俺の昼飯は最高のごちそうになったわwww
放課後も、ユイは教室でノートを取ってて、俺は後ろの席から
「なあなあ、明日テスト範囲じゃね?www オワタwww」
って騒いでたら、ユイがボソッと、
「そうなると思って、昨日終わらせた」
って。
「は!?マジかよ!?www ってかお前、俺に先に教えろよwww 鬼かよwww」
俺が言うと、ユイはほんの少しだけ視線を横にずらして、
「……知りたいなら、自分で調べれば?」
クールすぎるやろwww
でも、それがユイなんだよなwww
窓から吹き込む風がカーテンをふわっと揺らすたびに、
「あ〜青春って感じ〜www」
ってバカみたいなこと言って、ひとりで盛り上がる俺www
「そういうセリフ、漫画の中だけにしとけば?」
ユイの声が聞こえたとき、俺は思わず吹き出して、
「おいおいwww クール系ヒロインがツッコミすんのかよwww 熱でもあるんじゃね?」って言ったんだけど、
ユイは窓の外を見たまま、ほんの少しだけ肩を揺らして、
「……くだらない」
って、でもちょっとだけ口元がゆるんでて、俺は内心ガッツポーズだったwww
あいつは笑わない。
でも、笑わないなりに、ちゃんと楽しんでくれてるってのが伝わるから、俺はそれが嬉しくてたまらなかったんだわwww
俺らの席は、前後じゃなくて、ちょっとだけ斜め後ろにある距離感で。
俺が変なこと言えば、ユイはノートのペンを止めて、ふと顔をあげる。
「……またくだらないこと言ってる」
「いやいや、くだらないことこそが世界救うからwww」
「世界、滅びればいいのに」
「えっっwww」
この会話だけで、俺は一日テンション保てるんだわwww
たまにだけど、放課後、ユイと一緒に帰ることもあった。
って言っても、
「帰ろう」
なんて可愛いもんじゃなくて、
俺が勝手に後ろついてって、
「おっ、俺のストーカー力高くね?www」
って言ったら、
「……ストーカーって自白するのって、警察案件だよ」
って冷静に返される。
でも、その歩幅が自然に合ってるのが、なんか嬉しくてwww
黙って並んで歩く帰り道は、俺にとって宝物だったんだわwww
ある日の昼休み。
俺は机に突っ伏して、
「うわ〜…眠すぎて脳みそが液体になりそうwww」
って呻いてた。
ユイはその横でパンかじってて、
「……もう液体になってるんじゃない?」
って冷たく言うから、俺は思わず顔あげて
「お前なぁwww 俺の繊細な心にズタズタダメージ与えるのやめろwww」
って大げさに言ったら、ユイは少しだけ息を漏らすように笑って、
「……ほんと、馬鹿だね」
そう言った。
その「バカ」は、いつもの無感情じゃなかった。
少しだけ、優しかった。
あの日のその言葉、なんでか妙に胸に残ってるんだよなwww
そうやって俺とユイのいつも通りは続いてた。
ふざけて、ツッコんで、軽口たたいて。
あいつが冷たく言い返して、でもその中にほんのちょっとだけ温度があるってことに気づけるようになって。
俺はこの当たり前が、ずっとずっと続くんだと思ってたんだわwww
まじで、何の根拠もなくなwww
だけど、この少しずつ重なっていった笑いと沈黙が、
あとから俺の心を、ズシンと殴ってくるなんて
その時の俺には、全然想像もできなかったんだわwww
その日は雨だった。
朝からずーっと、止む気配がない細かい雨。しとしと、ずっと降ってるやつなwww
俺は朝っぱらから靴下濡れて、
「おいwww これ地味にテンション下がる系か?www」
ってぶーたれてたけど、ユイは黙って傘さして、俺の少し前を歩いてた。
登校途中のコンビニで、俺が、
「ジャンプ買ってく?」
って聞いたら、ユイは小さく首を横に振って、
「……どうせ読んでる暇ないし」
って。
「いやいや!休み時間に読むために生きてんだろwww」
「……バカすぎて、逆に尊敬する」
そんな会話。くだらないけど、妙に心地いいんだwww
教室に着いたら、みんな濡れた制服をハンカチで拭いたり、髪をタオルでぐしゃぐしゃやってたり、なんか全体的にダルそうな空気だった。
俺はその空気すら楽しんで、
「おいおい!雨で湿気MAXだけど、俺のテンションだけは快晴だぞwww」
って言ったら、後ろのヤツに、
「いや、お前だけ天気予報バグってんだよwww」
って返されて、盛り上がったwww
ユイはそんな俺たちを一瞥して、カバンからノートを出す。
「元気なのはいいけど、授業中に寝ないでね」
「うっっっっwww なぜバレたwww」
俺はすぐに顔を伏せて机に突っ伏したふりをするけど、目の端で見たユイは、いつも通り静かに笑ってるような、でもどこか遠くを見てるような表情だった。
あれ、なんだったんだろうな。
放課後、雨は止んでたけど、地面はびしょびしょ。
俺はいつもどおり、
「帰りカラオケいかね?www」
とか言ってみたけど、ユイは、
「……先に帰る」
ってポツンと言って、傘をさして歩き出した。
「おいおいwwww 俺というエンタメ置いてくのかよwww」
って言いながら追いかける俺に、ユイは振り向きもせずに、
「エンタメなら、テレビで十分」
って。
でもさ、それでも俺は、結局ユイと一緒に帰った。
傘、一本だったけどなwww
「近づきすぎると服濡れるでしょ」
って文句言われたけど、
「いやいやwww お前のそのクールビームでこっち凍ってんだわwww」
って返したら、ほんのちょっとだけ、ユイの口元が緩んだ。
俺はその笑顔、ちゃんと見てたからなwww
一瞬だったけど、まじで脳内スクショして保存したレベルwww
その日の夜、なんとなく眠れなくて、ベッドの上でスマホいじってた。
SNSでバズってる猫動画見てひとりで爆笑してたら、ふと思い出した。
あの笑顔。
あれ、何年ぶりだったんだろうってwww
ユイって、昔から笑わない子だったけど、子どもの頃はもっと感情出してた気がするんだよな。
小学校のとき、転んだ俺のひざに絆創膏貼ってくれたとき、ちょっとだけ泣きそうな顔してたし、
中学のとき、俺が部活で落ち込んでたら、
「……頑張れとは言わない。でも、やめるのは違うと思う」
って、わけわかんない言い方で背中押してくれた。
そういうの、ちゃんと覚えてるんだよ俺www
ふざけてばっかだけど、忘れてるわけじゃないwww
だからこそ、あの笑顔。あれがまた見れたのが、なんか嬉しくて。
俺はスマホ置いて、天井見上げながら呟いたんだわ。
「よっしゃ、明日はもっと笑わせたるwww」
ユイのこと、笑わせるのが俺の仕事だって、なんとなくそう思ってた。
そういう役割があるっていうか、それだけは譲れない気がしてたんだわwww
理由なんて、なかった。
でも、今思えば、それが俺の選んだことだったのかもしれねぇなwww
次の日。天気は快晴、昨日の雨が嘘みたいだったwww
空気もカラッとしてて、
「うわ〜俺のテンションと天気が完全シンクロしてるwww」
って朝から騒いでたら、母ちゃんに
「声でかい!」
ってガチで怒られたwww
登校中、ユイの姿を探してキョロキョロしてたら、いつもよりちょっと早く来てたみたいで、校門の前で待ってた。
「お、おはようございますwww クール姫様、今日はご機嫌いかがで?www」
ってアホみたいなこと言いながら近づいたら、ユイはちょっとだけ目を細めて、
「……昨日、また変な夢見た」
って言い出した。
「え、なにそれwww 怖いやつ?ホラー?ゾンビ?俺が爆発する夢?www」
「違う。……タケシが、無言だった」
「えっっっっwwwwww」
俺、思わず足止まったわwww
「それマジで悪夢じゃんwww 世界終わるやつwww」
って笑ったら、
ユイは小さく、ほんの小さく笑った。
「……静かなタケシ、少し怖かった」
「わかる〜www 俺も自分が静かだったら不安になるもんwww」
それだけの会話。でも、なんか不思議とあったかかったんだよな。
ユイが自分から何か話してくれるのって、そんなに多くない。
だからその一言一言が、俺には宝みたいに思えてくるんだわwww
その日は特別なイベントも何もなかった。
授業は普通にあって、俺は普通に寝て、先生に怒られて、ユイはノートを取ってた。
昼休み、パンを買いに行くついでに俺はジュースも買ってきて、
「ユイ!平民からの捧げ物をお受け取りくだされwww」
ってエナジードリンク差し出したら、
「……カフェイン、苦手なんだけど」
「えっwww あ、そっかwww ごめんごめん、でも気持ちはエナジーだからwww これ飲んだら笑顔になる呪いかかってるしwww」
「……じゃあ、効かない呪いでもかけとく」
うっっっっわwww
この会話だけで今日も満足度200%www
だけど、その時、ふとユイがカバンから出したおにぎりを見て俺は思った。
なんか、手がちょっと震えてた気がする。
ほんの一瞬だったけど、その指先のかすかな揺れが、なぜか引っかかって。
「おいおいwww もしかして腹減りすぎてガクブルきてんの?www」
「……ただの冷え」
ユイはそう言って、そっけなく答えた。
でも俺は、なんとなくそれ以上ツッコめなかったんだよな。
あれ?って思ったけど、でも俺はまた笑って流した。
笑ってれば、全部なんとかなると思ってたんだよwww
いや、違うな。笑ってないと、怖かったんだわ。
放課後、俺は珍しく自習室に行った。
ユイもそこにいて、静かな空間で並んで机に向かってた。
勉強なんていつぶりだよってくらい真面目にペン走らせてたら、
「…どうしたの、雨でも降る?」
って横から低い声。
「いや、昨日降ったしwww そろそろ俺も知的キャラに進化しようかと思ってさwww」
「…⋯1日で戻りそう」
「ひどwww せめて2日くらいは持たせてくれよwww」
そんなやり取りをしながら、時間は静かに流れていった。
外はもう薄暗くなってて、自習室にはほとんど誰もいなかった。
その時、ユイがふとつぶやいた。
「……ねえ、タケシ」
「ん?www どした、改まってwww 告白か?www」
「……もし、明日突然、私がいなくなったらどうする?」
俺は、笑った。
何も考えず、反射で笑った。
「は?なに言ってんのwww そんなわけあるかよwww」
「……そうだね」
ユイはそれだけ言って、またノートに視線を戻した。
俺はそれ以上、何も言えなかった。
いや、言わなかったんだと思う。
深く考えるのが怖かったんだわ。
「もし」
⋯⋯なんて、冗談に決まってるって⋯⋯そう思いたかった。
その日、俺は家に帰ってから、
なんか胸のあたりがザラザラして、ずっとスマホで意味もなくYouTubeの動画ばっか見てた。
いつもの猫動画も、なんか笑えなかった。
それでも俺は、ベッドの中で呟いたんだわ。
「明日も、笑わせてやっからなwww」
それだけは、ちゃんと決めてた。
文化祭。
それはつまり、学園モノのアニメで爆発するイベントNo.1だろwww
もうテンション爆上がりってやつwww
「青春って爆発してからが本番だよな!?www」
とか叫びながら教室駆け回ってたら、担任に
「マジで爆発するなよ」
ってガチトーンで止められたわwww
今年の俺らのクラスは喫茶店。
「ありきたりじゃね?www」
って文句言いつつも、内心ちょっとワクワクしてたwww
だってさ、クラスみんなで何かを作るって、案外嫌いじゃねーんだよなwww
でもな。
あいつは最初、その準備にも全然顔出してこなかった。
「なぁ、ユイ。喫茶店、手伝わね?」
放課後、準備でごちゃつく教室の片隅で、俺はそれとなく声かけた。
ユイは参考書閉じて、目だけこっち向けて、
「……人、多すぎ」
「それなwww 俺もあんまり得意じゃねーけど、さすがに逃げ切ったら後で晒されるぞwww」
「……じゃあ、夜の部なら行く」
「えっ、文化祭って深夜営業あるん!?www 怖っwww」
「……準備の話」
「なるほどwww よし、じゃあ深夜の秘密結社みたいに準備しよーぜwww」
ユイはふっと小さく笑って、
「……言ってる意味わからない」
って、言葉だけ冷たかった。
でも、俺はその一言だけで十分だったんだわwww
準備当日の夜。
校舎の中は昼より静かで、ガヤガヤ感も落ち着いてて、なんかちょっと⋯…落ち着くwww
ユイはいつもの制服じゃなくて、カーディガン羽織ってて、それがなんか…⋯いつもより柔らかく見えた。
教室の中、装飾用の折り紙とか、飾り付けの紙テープとかが散乱してて、俺とユイはそれを拾っては
「これ色ダサくね?www」
とか言い合いながら作業してた。
「ここ、リボンじゃなくて光るやつ貼ろうぜwww」
「光るやつって何。電飾とかないでしょ」
「俺の魂で光らすしかねぇなwww」
「じゃあ無理」
そんなやり取り、何度もした。
誰もいない教室の中、ユイの声が響いて、笑って、また静かになって。
不思議な時間だった。
ただの文化祭準備なのに、
なんか、他のどの時間よりもちゃんとユイと向き合えてる気がしてた。
「ねぇ、タケシ」
飾り付けを壁に貼ってるとき、ユイがふいに言った。
「ん?どしたwww この壁、崩れそう?www」
「……こうやって一緒に何かするの、久しぶりだね」
俺は一瞬だけ言葉を失った。
こんなユイの言い方、たぶん、ほんとに珍しい。
「お、おうwww そうだなwww てか…何年ぶりよ?ww」
「中学のとき、あったでしょ?学年新聞。あれ、二人で作ったじゃん」
「うっっっっっっっっわwww 懐かしすぎんだろwww あのとき俺、間違って校長の写真にヒゲ描いて提出したやつwww」
「……先生、本気で怒ってた」
「マジであの時、人生終わったかと思ったわwww」
ユイは壁に飾り付けしながら、小さく笑って、
「……でも、面白かった」
ってつぶやいた。
その声は、どこか遠くを見てるみたいで、
俺はなんとなく胸がぎゅってなった。
「ユイさー、なんか最近…笑顔増えたよなwww」
俺がそう言うと、ユイは手を止めて、こっち見た。
「……気のせいだよ」
でも、その気のせいが嬉しくてたまんなかったwww
文化祭当日。
教室は満員、喫茶店は思ったより大盛況www
俺はエプロン姿で、
「らっしゃーせーwww 本日も笑いとコーヒーお届けしますwww」
って騒いでたら、客に。
「どっちも薄いな」
って言われたわwww
それでも、バタバタの中で、ふと窓の外を見た瞬間。
ユイが、ベンチに座ってて、青空を見上げてた。
その姿がなんか、やけに静かで、綺麗だった。
それ見た瞬間、なんかわかんねーけど、俺のwwwが止まったんだわ。
文化祭が終わってからの空気って、なんかちょっとだけ寂しいんだよなwww
教室の飾りも片付けられて、またいつもの毎日が戻ってくる。
それがなんか、夢から覚めたみたいで、ちょっとだけ胸に風が吹く感じwww
だけど、俺らの日常は続いてた。
変わらないようで、少しだけ変わってきてた。
ある日の放課後。
ユイは最近、早く帰るようになってた。
「今日は残らないの?」
って聞くと。
「……家のことあるから」
って。
「まじかよwww 俺というお笑いライブ捨てて帰るの?www」
「……タケシのボケ、90%くらい既視感ある」
「そんな…新ネタ作ってくるわwww」
ユイはその日も、軽く笑って帰っていった。
でもな、なんか気になったんだよ。
歩き方が少し、ゆっくりだった。
背中が、少し小さく見えた。
俺は勝手に
「勉強疲れだろwww」
って思ってたけど、
今思えばあれが最初のサインだったのかもしれねぇwww
次の日。
ユイ、学校休んだ。
「うぉいwww もしかして昨日のボケが強烈すぎて腹痛起こした?www」
って、ふざけながらメール送ったけど、既読つかない。
放課後になっても、来なかった。
「まぁ、風邪かなんかだろwww」
って笑ってたけど、家に帰ってから、なんか……胸がざわざわしてた。
ユイって、あんまり体調崩さないタイプだったから。
昔から、弱音も吐かないし、無理してでも学校には来るようなヤツだったから。
「いやいやwwwたまたまだろwww」
スマホ見ながら、意味もなく笑ってみた。
既読は、つかなかった。
次の週、ユイは復帰した。
教室に入ってきた時、みんなが、
「おー!久しぶり!」
とか声かけてたけど、
俺は一瞬だけ、言葉を失った。
顔色が、悪かった。
というか、全体的に細くなってた。
「お、おいおいおいwww どこのダイエット番組出てきたん!?www」
そう声をかけてみたけど、ユイは、笑わなかった。
「……ちょっと、体調崩しただけ」
それだけ。
たった一言。
でも、その一言が、どこか遠かった。
俺は心の中で無理やりに、
「まぁ、まだ本調子じゃないだけだろwww」
って納得させた。
けど、授業中のユイは何度も咳してた。
ノート取る手が、時々止まってた。
目の下に、クマがうっすらと見えてた。
その日の帰り道。
俺は思い切って聞いた。
「なぁ、ユイ。大丈夫か?www」
「……うん、大丈夫」
その答えに、なんでか。
「うん、なら良かったwww」
って返せなかった。
だって、その目が、大丈夫じゃないって言ってたから。
家に帰って、ベッドに寝転んで、何度もスマホ見てた。
通知は、来ない。
メッセージ送ろうかと思ったけど、
「何送ればいいんだよwww」
って、結局打たずに画面閉じた。
その夜、久々に夢を見た。
子供の頃の夢。
川辺で、ユイと石投げしてるやつ。
あいつが笑って、
「もっと飛ばせるでしょ」
って言ってて。
俺が。
「任せろwww 100回バウンドさせたるwww」
って叫んでるやつ。
目が覚めたとき、
なんか、変に胸が痛かった。
理由もなく、泣きそうになった。
「なぁユイ⋯…大丈夫って、ほんとに大丈夫なんか…⋯?」
そう呟いた俺の声には、笑いのwwwはつかなかった。
「おいユイwww 元気かよwww」
と、いつも通りのノリで送る俺のメッセージ。
返信は、すぐには来なかった。
数分後、ようやく返ってきた一言。
「元気」
短っっっwww
「お、おうwww それだけかよwww」
ってすぐに送ったら。
「うん」
また短っっwww
普段ならここで俺は何かしらボケて笑わせようとするんだけど、
なぜかその日は空っぽの気持ちで、
「なんだよそれwww もっと話そうぜwww」
って送ってた。
でもユイからの返信は、だんだん減っていった。
「最近どう?www」
「疲れた」
「え?何があった?www」
「学校」
「マジかよwww ちゃんと寝てる?www」
「寝てる」
「よかったwww じゃあ今度遊ぼうぜwww」
「うん」
返信はいつも短くて、冷たくて、でも俺はそれでも必死に笑わせようとしてた。
「おいユイwww笑ってくれよwww頼むwww」
でも返事は、もうほとんどなかった。
「ユイ、今日も来ないのかよwww」
夜遅くに送ったメッセージは既読になったまま、返事は来なかった。
俺はスマホを握りしめて、何度も画面を見返す。
「なんでだよwww なんで返さねーんだよwww」
気づけば、部屋の中は静かで、
俺の笑い声はどこにもなかった。
翌日、学校でユイを見かけた。
遠くから見ても、やっぱり痩せてて、顔色も良くなさそうだった。
「おい、ユイwww」
俺は大きく手を振って呼びかけた。
ユイは、ちらっとこっちを見て、
「……うん」
それだけだった。
その声は小さくて、無理に出したみたいに聞こえた。
「なあ、無理すんなよwww」
「……大丈夫」
でも、目は笑ってなかった。
帰り道、俺はいつものようにスマホを取り出した。
「もう一回だけ送ってみるかwww」
『ユイ、無理すんなよwww オレはいつでもここにいるからwww』
送信ボタンを押したあと、画面の前で息を殺した。
でも、返事はなかった。
その夜、俺は久しぶりに涙が出た。
笑いなしで。
ユイが教室にいない日は、
俺の笑いもどんどん減っていった。
「おいユイ、元気かよwww」
最初はそんな調子だったけど、
「ユイ、返信くれよ」
「ユイ…?」
気づいたら、ただの名前呼びになってた。
ある日、学校帰り。雨が降ってた。
俺は傘を持っていなかった。
ユイが突然現れて、無言で傘を差し出した。
「これ…」
その一言に、
「ありがとう」しか言えなかった。
その夜、メッセージが来た。
「…⋯検査結果、出た」
文字だけで震えた。
「大丈夫かよ…⋯?」
俺は返信を打ったが、返事は遅かった。
「……難しい」
ユイの言葉は短くて冷たかったけど、
俺は読み取った。
「でも、俺はここにいるからな」
病院の白く冷たい廊下で、俺は何度も待ちぼうけを食らっていた。
ユイの診察が長引くたびに、胸の奥に重たい石が落ちるようだった。
あの日から、俺のwwwは消えていった。
冗談を言う気にもなれなかった。
だって、ユイの体は日に日に弱っていっているのが、俺の目に焼き付いていたから。
待合室の窓の外で、小さな風が揺らす木の葉をぼんやり見ていた。
目の前の世界は動いているのに、俺の中だけが止まっている気がした。
診察が終わって、ようやくユイが現れた。
その顔は白く、疲れきっていた。
けど、少しだけ微笑んでくれた。
「タケシ、ありがとう」
その声は震えていて、でも確かな温もりがあった。
胸が締めつけられる。
俺は言葉を探した。
「俺で…⋯いいのか?」
素直な気持ちを伝えたら、ユイはゆっくりと頷いた。
「うん…」
それからの時間は、言葉よりももっと静かなものだった。
笑い声も、ふざけたwwwもいらなかった。
俺はただ、ユイの隣にいることだけを考えた。
病室の薄暗い光の中で、ユイの手をそっと握った。
「怖くないのか?」
震える声で聞くと、ユイは静かに首を振った。
「怖いよ。でも…⋯タケシがいるから」
その一言が、どれだけ俺の心を救ったか。
涙が溢れてきて、必死にこらえた。
俺はその時、初めて気づいた。
もう、wwwはいらないんだと。
必要なのは、ただ隣にいること。
それだけでいいんだと。
時間はゆっくり流れていった。
ユイの呼吸を感じながら、俺は小さな声で話し続けた。
「ずっと一緒だ」って。
その言葉が、ユイの心に届くように祈りながら。
病院の薄暗い病室は、日々が淡々と過ぎていく場所になった。
ユイのベッドの横で、俺はただ時間を潰しているようで、実は心の中は荒れていた。
毎日見る彼女の顔は、かつてのクールで無表情なユイとは違っていた。
表情はどこか柔らかくなって、時折弱い笑みを見せてくれることもあった。
でも、どこか儚くて、消えてしまいそうな影が見え隠れしていた。
「タケシ、今日は来てくれてありがとう」
ユイの声はかすれていて、それでも俺には嬉しい言葉だった。
「毎日来るよwww」
そんないつものノリはもう出てこなかった。
俺はただ、小さな声で
「うん」
と答えた。
病室の窓から見える景色は、春から初夏に移り変わっていった。
外では子どもたちが遊び、街は活気づいている。
だけど、この部屋の中は時が止まったように静かだった。
俺はスマホを手に取ることも少なくなり、ユイと過ごす時間に全てを注いだ。
「タケシ…⋯こんなに近くにいてくれてありがとう」
ユイはある日、ぽつりと呟いた。
「なんで、俺のそばにいるんだよ?」
そう聞いた俺に、ユイは少し笑って答えた。
「私が怖いから…⋯でも、タケシがいると安心する」
俺はその言葉を聞いて、自分がどれだけ彼女の支えになれているのか実感した。
でも同時に、逆に俺自身がどれだけユイに支えられているのかも気づかされた。
彼女が弱くなるたびに、俺の心も壊れそうになる。
それでも笑顔でいようとする俺のwwwはもう消えてしまった。
ある日、病室の中で静かな沈黙が続いた。
ユイが眠っている隣で、俺は小声で話しかけた。
「ユイ、俺はさ…⋯お前が笑う姿が好きだったんだ」
「たとえクールで暗くても、たまに見せる笑顔が好きだった」
ユイは眠ったままだったけど、俺は続けた。
「だから、もしまた笑えるなら、俺はずっとそばにいるよ」
その言葉は、ユイに届いているか分からなかった。
でも、俺は伝えずにはいられなかった。
夜、ベッドの端で目を閉じる俺の頬に、一筋の涙が伝った。
笑いもいらない。
今必要なのは、ただ素直な気持ちを伝えることだけだった。
ユイが一週間だけ外に出られるって聞いた瞬間マジで信じられなかったんだよwww
「え、マジで?ホントに?www」
って何回もスマホ画面見ながら叫んじゃって、隣の家の犬に吠えられたくらいだよwww
病院の先生が、
「体調を見ながら短時間なら外出も可能です」
って言ってくれて、ユイも小さく笑ったんだ。
その笑顔見て、心臓がバクバクしたwww
「マジでこれ、奇跡じゃね?」
って思った。
家に帰ってから、俺はすぐに考えた。
「ユイに何かプレゼントしなきゃwww」
って。
でも、何がいいか全然思いつかなくて、スマホで
「病気でも喜ぶプレゼント」
って検索したのは秘密だwww
結局、地元の雑貨屋で、ユイが好きそうなシンプルで可愛いブレスレットを買ったんだ。
包装紙の上から何度も触ってたら、手が震えてるのに気づいて、
「俺www緊張しすぎwww」
って一人で笑いながらツッコミ入れてた。
ユイの家に着くと、玄関の前で深呼吸してからドアを開けた。
ユイはベッドで待ってて、少し痩せてたけど、いつものクールな表情が少し和らいでた。
「これ、どうぞ」
ブレスレットを差し出すと、ユイは驚いたように目を見開いた。
「タケシ…ありがとう」
その声は震えてて、俺は胸が熱くなった。
「ずっと一緒にいてくれる?」
ユイが聞いた。
「wwwおうよ、ずっとなwww」
俺は笑って答えたけど、その裏で涙がこぼれそうだった。
外に出て、久しぶりに感じる風の匂い。
公園のベンチに座って、ゆっくりとした時間が流れる。
ユイは少しずつ笑う回数が増えていった。
それでも、時々無言になって遠くを見る目は寂しそうだった。
「笑いながら泣くって、こういうことなんだな」
俺は心の中でつぶやいた。
一週間はあっという間に過ぎていったけど、
その中に詰まった思い出は、何よりも濃くて温かかった。
「またいつか、こうやって笑い合える日が来るよなwww」
そう言った俺に、ユイは小さく頷いた。
夜、ユイの家のベッドの横で、俺はそっとブレスレットを見つめた。
「wwwこれが、俺たちの約束だ」
その瞬間、胸の奥が熱くなって、涙が溢れてきた。
でも、俺は笑っていた。
一週間の外出が終わって、ユイはまた病院に戻った。
俺はあの短い時間が奇跡だったことを、まだ実感できないまま過ごしていた。
あの笑顔、あの小さな、
「ありがとう」
全部が心に焼きついて離れなかった。
その日の午後、俺は学校にいた。
スマホのバイブが震えた瞬間、胸がざわついた。
画面には「病院」の文字。
頭が真っ白になった。
「ユイさん、急変しました」
電話口の声は冷たく事務的だったのに、俺の世界が崩れ落ちる音が聞こえた。
「え、は?うそだろwww冗談だろwww」
口から勝手に
「www」
が出た。
でもそれは、笑いじゃなく、祈りみたいな震えだった。
走った。
学校を飛び出して、息が切れて、足が動かなくなるまで走った。
病院の廊下がやけに長く見えて、足が鉛のように重かった。
病室に入った時、ユイはもう酸素マスクをつけられていて、目を閉じていた。
機械の音が、規則正しく響いている。
白いシーツに包まれた小さな身体。
あの時見たブレスレットが、手首でかすかに光っていた。
「ユイ!!おいユイwww起きろよwww」
叫んだ。
でも返事はなかった。
「なあ、笑ってくれよwww頼むよwww」
声が震えて、涙で視界が滲んだ。
看護師が肩に手を置いたけど、俺は振り払ってユイの手を握った。
冷たくて、細くて、それでもまだ温もりがあった。
「ユイ、ずっと一緒だって言ったじゃんwww」
涙が頬を伝った。
機械の音が途切れた。
病室の空気が、凍りついたみたいに静まり返った。
俺の
「www」
はもう声にならなかった。
ただ
「ユイ…⋯ユイ…⋯」と呟くことしかできなかった。
長い長い沈黙のあと、俺はユイの手を胸に当てて、泣き崩れた。
初めて、心の底から泣いた。
家のドアを開けた瞬間、世界が崩れた。
ユイがもういないっていう現実が、重く重くのしかかってきて、俺はその場にへたりこんだ。
「⋯⋯嘘だろwww」
声にならない声が漏れた。
それは笑いでも皮肉でもない、ただの虚無だった。
部屋の隅に倒れ込んで、膝を抱えて震えながら涙が止まらなかった。
「なんでだよ…⋯なんでユイが…⋯」
声が嗚咽に変わって、俺はただ泣いた。
笑いのwwwはもうどこにもなかった。
あの日の笑いが嘘みたいに消えてしまった。
時間なんてどうでもよくて、ただ泣いて泣いて泣き続けた。
窓の外の青い空も、風に揺れる木の葉も、全部が遠い景色になった。
俺の中にぽっかり穴が開いて、どうやっても塞がらなかった。
「あいつはいつも冷たかったのに、俺には笑ってくれたんだよな…⋯」
涙でにじんだ視界の中で思い出す。
ユイの無表情な顔、クールな言葉、でも俺だけには見せてくれた小さな笑顔。
その笑顔が、今でも胸の奥で光ってる。
部屋の中で震えながら、俺は声にならない声で呟いた。
「ユイ…⋯ごめんwww」
「もっと笑わせたかったのに、もっと強くなりたかったのに…⋯」
自分の弱さに押しつぶされそうになりながら、涙は止まらなかった。
やがて涙が枯れて、静かな夜が訪れた。
だけど俺の心はまだ、壊れたままだった。
ユイが亡くなってから数日後、俺は決心した。
ずっと避けてきたけど、ユイのお母さんに会いに行くって。
「お母さん、俺、行くわwww」
とりあえずLINEで伝えたけど、手が震えててwwwがいつものように出るか不安だった。
でも、それだけが俺の唯一の逃げ道でもあった。
ユイのお母さんの家は、小さな木造の平屋だった。
玄関の扉をノックすると、優しい声が返ってきた。
「どうぞ」
中に入ると、あの日と同じあの空気が流れていた。
仏壇の前に座るユイのお母さんは、昔の写真を見つめながら、静かに微笑んでいた。
「ユイのこと、色々教えてもらえると嬉しいわ」
そう言われて、俺は少し戸惑いながらも口を開いた。
「ユイってさ、クールで無口だったけど、俺にだけはよく話してくれたんだよwww」
「体育祭の時、俺が転んだら、笑いながら心配してくれてwww なんか、あいつらしくて笑ったわwww」
お母さんは静かに頷きながら、時折涙ぐんでいた。
「ユイはね、あなたみたいに友達想いの子だったのよ」
「あなたがいてくれたから、彼女はどれだけ救われたか分からない」
そう言われて、俺の胸が締め付けられた。
「高校の時も、あなたにだけは弱音を吐いてた」
「私は知らなかったこともたくさんあった」
俺はその言葉に涙が溢れ出して、止まらなくなった。
「ユイは最後まで、あなたと一緒にいることを願っていた」
「だから、どうかあなたも前を向いてほしい」
俺は仏壇の前に膝をつき、手を合わせた。
「ユイ、ごめんwwwもっと笑わせたかったのにwww」
「でも、お前がいたから、俺は強くなれた」
涙が頬を伝い、声にならない嗚咽がこぼれた。
ずっと閉じ込めてた感情が溢れ出して、俺はその場に崩れ落ちた。
お母さんはそっと肩を抱いてくれた。
「泣いていいのよ、全部出しなさい」
俺はただ、涙を流しながら、ユイとの思い出と、お母さんの優しさに包まれていた。
その夜、家に帰る道すがら、俺は空を見上げた。
「ユイ、俺はお前の分まで生きるよ」
「ずっとずっと、忘れねぇよ」
ユイの家の片付けをしていたら、ふと埃をかぶった小さな木箱が目に入った。
開けてみると、写真や古いメモ、そして一通の分厚い封筒が静かにそこにあった。
「これ、まさか…⋯?」
震える手で封を切ると、中からユイの丁寧な文字が見えた。
「タケシへ」
まずは読んでくれてありがとう。
私はもうこの手紙を直接渡せないけど、あなたに伝えたいことが山ほどある。
私たちの時間は本当に短かった。
あなたが笑いながら俺のこと支えてくれたこと、私はずっと忘れない。
あの馬鹿みたいな笑い方で、でも本気で私を励ましてくれてた。
ごめんなさい。
病気であなたに辛い思いをたくさんさせてしまったこと。
あんなに元気だったあなたを悲しませて、本当に申し訳ない。
でもね、ありがとう。
あなたの存在が私の一番の支えだった。
あなたがくれた笑顔や優しさが、どんなに私の心を温めてくれたか、言葉じゃ言い表せない。
私が無口でクールでいる理由、知ってた?
本当は誰よりも不安で怖かった。
でも、あなただけにはそれを隠せなかった。
体育祭の日、あなたが転んだとき、私が笑ったのは、緊張と心配が入り混じったせいだったんだよ。
その時、あなたは
「大丈夫www」
って笑ってくれたけど、私はその笑い声で泣きそうだった。
高校に入ってからも、あなたにだけは本当の私を見せてた。
笑わない私が、笑う数少ない瞬間。
それがあなたといる時間だった。
あなたに謝りたいこともある。
もっと強くなりたかった。
あなたをもっと笑わせたかった。
でも、私はそれができなかった。
だけどね、あなたがいたから、私は最後まで頑張れた。
あなたの笑いが私の暗闇に光をくれた。
これからはあなたの人生を、自分のために生きてほしい。
悲しみの中でも、笑顔を忘れないで。
私の分も、たくさん笑ってほしい。
私はいつもあなたのそばにいる。
見えなくても、感じてくれると信じてる。
最後に、心から伝えたい。
「ほんとうに、大好き。ずっと、ずっと」
ユイ
タケシは手紙を握りしめ、何度も何度も声に出して読んだ。
涙が止まらず、嗚咽がこみあげたけど、そこには確かな温もりと希望があった。
「俺もだよ、ユイ」
「俺はお前の分まで、絶対に生きる」
そう誓って、タケシは深く息を吸い込んだ。
夜が明けて、静かな朝が訪れた。
タケシは窓の外を見つめていた。
昨日までの涙と悲しみが、少しずつ、やわらかな希望に変わり始めているのを感じていた。
手には、ユイの手紙。
まだ温かく、まるでユイの声が直接聞こえてくるみたいだった。
「大好きだ」
心の中で何度も繰り返す言葉。
「ずっと、ずっと」
これからも続く約束。
もうwwwばかりの自分じゃない。
本当の気持ちを伝えられる、自分になれた気がした。
涙はもう、悲しみのためじゃなく、感謝と前に進む力のために流れていた。
そして、タケシはゆっくりと目を閉じた。
「ユイ、俺はここから歩いていくよ。お前の分まで、ちゃんと生きる」
窓の向こう、朝日に染まる世界は、まだ見ぬ未来の始まりだった。
何がおかしい?www
で、そんな俺には幼馴染のユイがいるんだ。
ユイはマジで真逆www クールで無表情、話しかけてもたいてい無反応www
でもなんか、不思議と居心地がいいんだよな。
学校の廊下で、俺がいつもの調子でさ。
「今日も最強にヤバくね?www」
とか言っても、ユイはただじっと俺を見るだけで。
「……別に」
とかそんな感じで返す。
俺は。
「え、なんでそんなに冷たいんだよwww」
ってツッコむけど、それがまた面白くて笑っちゃうんだわwww
ユイは派手じゃないけど、芯が強くて何考えてるか掴めないミステリアスなタイプ。
でも、たまにだけど、俺のふざけたことにちょっとだけ笑ってくれるんだよな。それが最高に嬉しくてwww
俺はいつも調子乗ってばっかで、真面目な話なんて苦手www
だけどユイはそんな俺を黙って見守ってくれてる。
その存在が、俺にとっては何よりも大事だったんだわwww
俺はバカだから、そんなユイのことを笑わせたくて、無理やりふざけてみたりするんだよwww
それでちょっとでも反応があると、
「お、効いてるwww」って感じでまた調子に乗る。
ああ、ほんと俺ら、最強のバカコンビだわwww
ユイはクールで暗めって言ったけど、実は結構繊細なんだよなwww
ある時、教室の隅で一人ぼーっとしてるのを見かけて、俺は。
「おい、何してんだよwww」
って声かけたら、ユイはポツリと。
「別に…⋯なんにも」
ってだけ返してきた。
まあ、そんなんでも俺は全然気にしねえwww
「そうかそうか、じゃあ今日は俺のギャグ大会だwww」
って勝手に盛り上がって、周りのやつらも巻き込んで笑わせまくったわwww
それが俺らのいつものスタイルで、ユイは無反応でも、なんとなく楽しんでくれてると思ってたんだよwww
でも、そんな日々が続く中で、ユイの様子に少しずつ変化が現れてきた。
いつもよりも疲れてるのか、声がかすれてたり、時々目を伏せてたり。
俺は気づいてたけど、そんなの絶対に認めたくなかったんだわwww
だって、病気なんて言葉は俺の世界にはなかったし、ユイはいつもクールに俺を受け止めてくれてたから。
だから俺は相変わらず「www」全開で、大丈夫だって!俺がいるからwwwって無理やり笑わせようとしてたんだよなwww
高校になっても、俺の「www」スタイルは健在だwww
まあ、クラスのみんなからは「またかよwwww」って呆れられてるけど、俺的にはこれが素なんだわ。
で、ユイも同じ高校に進学してきたんだけど、相変わらずのクールさでさ。
教室の隅で、無表情で本読んでる姿はまじで氷みたいに冷たいwww
でも俺はそんなユイが好きなんだよなwww
初日、俺は調子に乗って「よっしゃ!新学期も全開で笑っていこうぜwww」って言ったら、ユイは軽く目を細めて、
「……相変わらずだね」
とだけ言った。
それだけで、なんか嬉しくなった俺は、またバカみたいにふざけ続けたわwww
友達は俺の「www」多すぎるノリを心配してたけど、俺は気にしねえwww
だってユイがそばにいるんだから、何とかなるだろwww
そんな調子で始まった高校生活は、まあいつも通りって感じだったけどwww
入学式の日さ、校庭は新しい制服に身を包んだ生徒たちで溢れてた。俺はテンション爆上げで、校門前で「よっしゃー!俺らの時代が始まったぜwww」って叫びまくってたけど、周りは完全に白い目だわwww
そんな俺の横で、ユイはいつも通りの無表情で黙って立ってた。
でもよく見ると、制服の袖をギュッと握りしめてて、まるで何かをこらえてるみたいだったんだよな。
最初の授業は緊張しそうだったけど、俺は相変わらず調子に乗りまくりで、周囲を笑わせようとしてた。
「え?そんな授業退屈すぎん?俺のギャグで笑わねえとかマジでありえねえwww」って感じで、席の後ろの奴らにも声かけまくったんだわ。
ユイは、そんな俺をチラリと見て、ほんの少しだけ目が細くなった気がした。
相変わらずって声が聞こえた気がして、俺はマジで救われたような気分になったんだわwww
放課後、みんなで廊下で騒いでたら、ユイが突然ぽつんと俺のそばに来て、
「タケシ、あんまり騒ぎすぎないでよ」
って言った。
マジでびびったwww
あいつがこんな風に普通に話しかけてくるの、珍しすぎて心臓バクバクだったわwww
「お、どうした?www 今日は調子いいのか?」
ってからかうと、ユイは無表情のままだけど、少しだけ口元が緩んだ気がしたんだ。
その瞬間、俺は思った。
「これからも、こんなふざけた俺を受け入れてくれるのはユイだけなんだ」ってwww
そう思えたことが、なんだか心の支えになって、俺はまた明日も「www」全開で行こうって決めたんだわ。
高校生活にも少しずつ慣れてきた頃、俺はいつもの調子で教室の中心にいたわけwww
廊下でクラスメイトとじゃれあったり、
「この教科書、ページ開いたら寝落ちする呪いでもついてんのか?www」
とか、意味不明なこと言ってみたりwww
でも、そういうバカなこと言いながら、目はずっと教室の隅にいるユイを追ってた。
あいつは、入学してからも相変わらずで、一人で静かに本を読んでたり、窓の外をぼーっと眺めてたりしてた。
けど、俺にはわかるんだわwww
そういう時間が、ユイにとってめちゃくちゃ大事なんだってwww
静かにしてるからって、何も感じてないわけじゃないんだよな。
むしろ、誰よりもちゃんと周りを見てるし、誰よりも感情を抱えてる。
昼休み、俺はいつも通り購買でパン買って戻ってくると、ユイの席の隣に勝手にドカッと座って、
「見ろよwww また焼きそばパンと間違えてジャムパン買ったわwww マジでジャムの呪いかかってるwww」
って一人で騒ぎまくってた。
ユイは本から目を上げて、
「……知らない」
とだけ言って、本に視線を戻した。
でもな、俺は見逃さなかったぞwww
その口元、1ミリだけ笑ってたんだよwww
「ほらなwww 俺のギャグ、完全にツボってるやんけwww ユイもやっと笑いのセンス追いついてきたなwww」
俺がそう言うと、ユイはちょっとだけため息をついて、
「……うるさい」
って。
でも、その声にはどこか優しさがあった。
それだけで、俺の昼飯は最高のごちそうになったわwww
放課後も、ユイは教室でノートを取ってて、俺は後ろの席から
「なあなあ、明日テスト範囲じゃね?www オワタwww」
って騒いでたら、ユイがボソッと、
「そうなると思って、昨日終わらせた」
って。
「は!?マジかよ!?www ってかお前、俺に先に教えろよwww 鬼かよwww」
俺が言うと、ユイはほんの少しだけ視線を横にずらして、
「……知りたいなら、自分で調べれば?」
クールすぎるやろwww
でも、それがユイなんだよなwww
窓から吹き込む風がカーテンをふわっと揺らすたびに、
「あ〜青春って感じ〜www」
ってバカみたいなこと言って、ひとりで盛り上がる俺www
「そういうセリフ、漫画の中だけにしとけば?」
ユイの声が聞こえたとき、俺は思わず吹き出して、
「おいおいwww クール系ヒロインがツッコミすんのかよwww 熱でもあるんじゃね?」って言ったんだけど、
ユイは窓の外を見たまま、ほんの少しだけ肩を揺らして、
「……くだらない」
って、でもちょっとだけ口元がゆるんでて、俺は内心ガッツポーズだったwww
あいつは笑わない。
でも、笑わないなりに、ちゃんと楽しんでくれてるってのが伝わるから、俺はそれが嬉しくてたまらなかったんだわwww
俺らの席は、前後じゃなくて、ちょっとだけ斜め後ろにある距離感で。
俺が変なこと言えば、ユイはノートのペンを止めて、ふと顔をあげる。
「……またくだらないこと言ってる」
「いやいや、くだらないことこそが世界救うからwww」
「世界、滅びればいいのに」
「えっっwww」
この会話だけで、俺は一日テンション保てるんだわwww
たまにだけど、放課後、ユイと一緒に帰ることもあった。
って言っても、
「帰ろう」
なんて可愛いもんじゃなくて、
俺が勝手に後ろついてって、
「おっ、俺のストーカー力高くね?www」
って言ったら、
「……ストーカーって自白するのって、警察案件だよ」
って冷静に返される。
でも、その歩幅が自然に合ってるのが、なんか嬉しくてwww
黙って並んで歩く帰り道は、俺にとって宝物だったんだわwww
ある日の昼休み。
俺は机に突っ伏して、
「うわ〜…眠すぎて脳みそが液体になりそうwww」
って呻いてた。
ユイはその横でパンかじってて、
「……もう液体になってるんじゃない?」
って冷たく言うから、俺は思わず顔あげて
「お前なぁwww 俺の繊細な心にズタズタダメージ与えるのやめろwww」
って大げさに言ったら、ユイは少しだけ息を漏らすように笑って、
「……ほんと、馬鹿だね」
そう言った。
その「バカ」は、いつもの無感情じゃなかった。
少しだけ、優しかった。
あの日のその言葉、なんでか妙に胸に残ってるんだよなwww
そうやって俺とユイのいつも通りは続いてた。
ふざけて、ツッコんで、軽口たたいて。
あいつが冷たく言い返して、でもその中にほんのちょっとだけ温度があるってことに気づけるようになって。
俺はこの当たり前が、ずっとずっと続くんだと思ってたんだわwww
まじで、何の根拠もなくなwww
だけど、この少しずつ重なっていった笑いと沈黙が、
あとから俺の心を、ズシンと殴ってくるなんて
その時の俺には、全然想像もできなかったんだわwww
その日は雨だった。
朝からずーっと、止む気配がない細かい雨。しとしと、ずっと降ってるやつなwww
俺は朝っぱらから靴下濡れて、
「おいwww これ地味にテンション下がる系か?www」
ってぶーたれてたけど、ユイは黙って傘さして、俺の少し前を歩いてた。
登校途中のコンビニで、俺が、
「ジャンプ買ってく?」
って聞いたら、ユイは小さく首を横に振って、
「……どうせ読んでる暇ないし」
って。
「いやいや!休み時間に読むために生きてんだろwww」
「……バカすぎて、逆に尊敬する」
そんな会話。くだらないけど、妙に心地いいんだwww
教室に着いたら、みんな濡れた制服をハンカチで拭いたり、髪をタオルでぐしゃぐしゃやってたり、なんか全体的にダルそうな空気だった。
俺はその空気すら楽しんで、
「おいおい!雨で湿気MAXだけど、俺のテンションだけは快晴だぞwww」
って言ったら、後ろのヤツに、
「いや、お前だけ天気予報バグってんだよwww」
って返されて、盛り上がったwww
ユイはそんな俺たちを一瞥して、カバンからノートを出す。
「元気なのはいいけど、授業中に寝ないでね」
「うっっっっwww なぜバレたwww」
俺はすぐに顔を伏せて机に突っ伏したふりをするけど、目の端で見たユイは、いつも通り静かに笑ってるような、でもどこか遠くを見てるような表情だった。
あれ、なんだったんだろうな。
放課後、雨は止んでたけど、地面はびしょびしょ。
俺はいつもどおり、
「帰りカラオケいかね?www」
とか言ってみたけど、ユイは、
「……先に帰る」
ってポツンと言って、傘をさして歩き出した。
「おいおいwwww 俺というエンタメ置いてくのかよwww」
って言いながら追いかける俺に、ユイは振り向きもせずに、
「エンタメなら、テレビで十分」
って。
でもさ、それでも俺は、結局ユイと一緒に帰った。
傘、一本だったけどなwww
「近づきすぎると服濡れるでしょ」
って文句言われたけど、
「いやいやwww お前のそのクールビームでこっち凍ってんだわwww」
って返したら、ほんのちょっとだけ、ユイの口元が緩んだ。
俺はその笑顔、ちゃんと見てたからなwww
一瞬だったけど、まじで脳内スクショして保存したレベルwww
その日の夜、なんとなく眠れなくて、ベッドの上でスマホいじってた。
SNSでバズってる猫動画見てひとりで爆笑してたら、ふと思い出した。
あの笑顔。
あれ、何年ぶりだったんだろうってwww
ユイって、昔から笑わない子だったけど、子どもの頃はもっと感情出してた気がするんだよな。
小学校のとき、転んだ俺のひざに絆創膏貼ってくれたとき、ちょっとだけ泣きそうな顔してたし、
中学のとき、俺が部活で落ち込んでたら、
「……頑張れとは言わない。でも、やめるのは違うと思う」
って、わけわかんない言い方で背中押してくれた。
そういうの、ちゃんと覚えてるんだよ俺www
ふざけてばっかだけど、忘れてるわけじゃないwww
だからこそ、あの笑顔。あれがまた見れたのが、なんか嬉しくて。
俺はスマホ置いて、天井見上げながら呟いたんだわ。
「よっしゃ、明日はもっと笑わせたるwww」
ユイのこと、笑わせるのが俺の仕事だって、なんとなくそう思ってた。
そういう役割があるっていうか、それだけは譲れない気がしてたんだわwww
理由なんて、なかった。
でも、今思えば、それが俺の選んだことだったのかもしれねぇなwww
次の日。天気は快晴、昨日の雨が嘘みたいだったwww
空気もカラッとしてて、
「うわ〜俺のテンションと天気が完全シンクロしてるwww」
って朝から騒いでたら、母ちゃんに
「声でかい!」
ってガチで怒られたwww
登校中、ユイの姿を探してキョロキョロしてたら、いつもよりちょっと早く来てたみたいで、校門の前で待ってた。
「お、おはようございますwww クール姫様、今日はご機嫌いかがで?www」
ってアホみたいなこと言いながら近づいたら、ユイはちょっとだけ目を細めて、
「……昨日、また変な夢見た」
って言い出した。
「え、なにそれwww 怖いやつ?ホラー?ゾンビ?俺が爆発する夢?www」
「違う。……タケシが、無言だった」
「えっっっっwwwwww」
俺、思わず足止まったわwww
「それマジで悪夢じゃんwww 世界終わるやつwww」
って笑ったら、
ユイは小さく、ほんの小さく笑った。
「……静かなタケシ、少し怖かった」
「わかる〜www 俺も自分が静かだったら不安になるもんwww」
それだけの会話。でも、なんか不思議とあったかかったんだよな。
ユイが自分から何か話してくれるのって、そんなに多くない。
だからその一言一言が、俺には宝みたいに思えてくるんだわwww
その日は特別なイベントも何もなかった。
授業は普通にあって、俺は普通に寝て、先生に怒られて、ユイはノートを取ってた。
昼休み、パンを買いに行くついでに俺はジュースも買ってきて、
「ユイ!平民からの捧げ物をお受け取りくだされwww」
ってエナジードリンク差し出したら、
「……カフェイン、苦手なんだけど」
「えっwww あ、そっかwww ごめんごめん、でも気持ちはエナジーだからwww これ飲んだら笑顔になる呪いかかってるしwww」
「……じゃあ、効かない呪いでもかけとく」
うっっっっわwww
この会話だけで今日も満足度200%www
だけど、その時、ふとユイがカバンから出したおにぎりを見て俺は思った。
なんか、手がちょっと震えてた気がする。
ほんの一瞬だったけど、その指先のかすかな揺れが、なぜか引っかかって。
「おいおいwww もしかして腹減りすぎてガクブルきてんの?www」
「……ただの冷え」
ユイはそう言って、そっけなく答えた。
でも俺は、なんとなくそれ以上ツッコめなかったんだよな。
あれ?って思ったけど、でも俺はまた笑って流した。
笑ってれば、全部なんとかなると思ってたんだよwww
いや、違うな。笑ってないと、怖かったんだわ。
放課後、俺は珍しく自習室に行った。
ユイもそこにいて、静かな空間で並んで机に向かってた。
勉強なんていつぶりだよってくらい真面目にペン走らせてたら、
「…どうしたの、雨でも降る?」
って横から低い声。
「いや、昨日降ったしwww そろそろ俺も知的キャラに進化しようかと思ってさwww」
「…⋯1日で戻りそう」
「ひどwww せめて2日くらいは持たせてくれよwww」
そんなやり取りをしながら、時間は静かに流れていった。
外はもう薄暗くなってて、自習室にはほとんど誰もいなかった。
その時、ユイがふとつぶやいた。
「……ねえ、タケシ」
「ん?www どした、改まってwww 告白か?www」
「……もし、明日突然、私がいなくなったらどうする?」
俺は、笑った。
何も考えず、反射で笑った。
「は?なに言ってんのwww そんなわけあるかよwww」
「……そうだね」
ユイはそれだけ言って、またノートに視線を戻した。
俺はそれ以上、何も言えなかった。
いや、言わなかったんだと思う。
深く考えるのが怖かったんだわ。
「もし」
⋯⋯なんて、冗談に決まってるって⋯⋯そう思いたかった。
その日、俺は家に帰ってから、
なんか胸のあたりがザラザラして、ずっとスマホで意味もなくYouTubeの動画ばっか見てた。
いつもの猫動画も、なんか笑えなかった。
それでも俺は、ベッドの中で呟いたんだわ。
「明日も、笑わせてやっからなwww」
それだけは、ちゃんと決めてた。
文化祭。
それはつまり、学園モノのアニメで爆発するイベントNo.1だろwww
もうテンション爆上がりってやつwww
「青春って爆発してからが本番だよな!?www」
とか叫びながら教室駆け回ってたら、担任に
「マジで爆発するなよ」
ってガチトーンで止められたわwww
今年の俺らのクラスは喫茶店。
「ありきたりじゃね?www」
って文句言いつつも、内心ちょっとワクワクしてたwww
だってさ、クラスみんなで何かを作るって、案外嫌いじゃねーんだよなwww
でもな。
あいつは最初、その準備にも全然顔出してこなかった。
「なぁ、ユイ。喫茶店、手伝わね?」
放課後、準備でごちゃつく教室の片隅で、俺はそれとなく声かけた。
ユイは参考書閉じて、目だけこっち向けて、
「……人、多すぎ」
「それなwww 俺もあんまり得意じゃねーけど、さすがに逃げ切ったら後で晒されるぞwww」
「……じゃあ、夜の部なら行く」
「えっ、文化祭って深夜営業あるん!?www 怖っwww」
「……準備の話」
「なるほどwww よし、じゃあ深夜の秘密結社みたいに準備しよーぜwww」
ユイはふっと小さく笑って、
「……言ってる意味わからない」
って、言葉だけ冷たかった。
でも、俺はその一言だけで十分だったんだわwww
準備当日の夜。
校舎の中は昼より静かで、ガヤガヤ感も落ち着いてて、なんかちょっと⋯…落ち着くwww
ユイはいつもの制服じゃなくて、カーディガン羽織ってて、それがなんか…⋯いつもより柔らかく見えた。
教室の中、装飾用の折り紙とか、飾り付けの紙テープとかが散乱してて、俺とユイはそれを拾っては
「これ色ダサくね?www」
とか言い合いながら作業してた。
「ここ、リボンじゃなくて光るやつ貼ろうぜwww」
「光るやつって何。電飾とかないでしょ」
「俺の魂で光らすしかねぇなwww」
「じゃあ無理」
そんなやり取り、何度もした。
誰もいない教室の中、ユイの声が響いて、笑って、また静かになって。
不思議な時間だった。
ただの文化祭準備なのに、
なんか、他のどの時間よりもちゃんとユイと向き合えてる気がしてた。
「ねぇ、タケシ」
飾り付けを壁に貼ってるとき、ユイがふいに言った。
「ん?どしたwww この壁、崩れそう?www」
「……こうやって一緒に何かするの、久しぶりだね」
俺は一瞬だけ言葉を失った。
こんなユイの言い方、たぶん、ほんとに珍しい。
「お、おうwww そうだなwww てか…何年ぶりよ?ww」
「中学のとき、あったでしょ?学年新聞。あれ、二人で作ったじゃん」
「うっっっっっっっっわwww 懐かしすぎんだろwww あのとき俺、間違って校長の写真にヒゲ描いて提出したやつwww」
「……先生、本気で怒ってた」
「マジであの時、人生終わったかと思ったわwww」
ユイは壁に飾り付けしながら、小さく笑って、
「……でも、面白かった」
ってつぶやいた。
その声は、どこか遠くを見てるみたいで、
俺はなんとなく胸がぎゅってなった。
「ユイさー、なんか最近…笑顔増えたよなwww」
俺がそう言うと、ユイは手を止めて、こっち見た。
「……気のせいだよ」
でも、その気のせいが嬉しくてたまんなかったwww
文化祭当日。
教室は満員、喫茶店は思ったより大盛況www
俺はエプロン姿で、
「らっしゃーせーwww 本日も笑いとコーヒーお届けしますwww」
って騒いでたら、客に。
「どっちも薄いな」
って言われたわwww
それでも、バタバタの中で、ふと窓の外を見た瞬間。
ユイが、ベンチに座ってて、青空を見上げてた。
その姿がなんか、やけに静かで、綺麗だった。
それ見た瞬間、なんかわかんねーけど、俺のwwwが止まったんだわ。
文化祭が終わってからの空気って、なんかちょっとだけ寂しいんだよなwww
教室の飾りも片付けられて、またいつもの毎日が戻ってくる。
それがなんか、夢から覚めたみたいで、ちょっとだけ胸に風が吹く感じwww
だけど、俺らの日常は続いてた。
変わらないようで、少しだけ変わってきてた。
ある日の放課後。
ユイは最近、早く帰るようになってた。
「今日は残らないの?」
って聞くと。
「……家のことあるから」
って。
「まじかよwww 俺というお笑いライブ捨てて帰るの?www」
「……タケシのボケ、90%くらい既視感ある」
「そんな…新ネタ作ってくるわwww」
ユイはその日も、軽く笑って帰っていった。
でもな、なんか気になったんだよ。
歩き方が少し、ゆっくりだった。
背中が、少し小さく見えた。
俺は勝手に
「勉強疲れだろwww」
って思ってたけど、
今思えばあれが最初のサインだったのかもしれねぇwww
次の日。
ユイ、学校休んだ。
「うぉいwww もしかして昨日のボケが強烈すぎて腹痛起こした?www」
って、ふざけながらメール送ったけど、既読つかない。
放課後になっても、来なかった。
「まぁ、風邪かなんかだろwww」
って笑ってたけど、家に帰ってから、なんか……胸がざわざわしてた。
ユイって、あんまり体調崩さないタイプだったから。
昔から、弱音も吐かないし、無理してでも学校には来るようなヤツだったから。
「いやいやwwwたまたまだろwww」
スマホ見ながら、意味もなく笑ってみた。
既読は、つかなかった。
次の週、ユイは復帰した。
教室に入ってきた時、みんなが、
「おー!久しぶり!」
とか声かけてたけど、
俺は一瞬だけ、言葉を失った。
顔色が、悪かった。
というか、全体的に細くなってた。
「お、おいおいおいwww どこのダイエット番組出てきたん!?www」
そう声をかけてみたけど、ユイは、笑わなかった。
「……ちょっと、体調崩しただけ」
それだけ。
たった一言。
でも、その一言が、どこか遠かった。
俺は心の中で無理やりに、
「まぁ、まだ本調子じゃないだけだろwww」
って納得させた。
けど、授業中のユイは何度も咳してた。
ノート取る手が、時々止まってた。
目の下に、クマがうっすらと見えてた。
その日の帰り道。
俺は思い切って聞いた。
「なぁ、ユイ。大丈夫か?www」
「……うん、大丈夫」
その答えに、なんでか。
「うん、なら良かったwww」
って返せなかった。
だって、その目が、大丈夫じゃないって言ってたから。
家に帰って、ベッドに寝転んで、何度もスマホ見てた。
通知は、来ない。
メッセージ送ろうかと思ったけど、
「何送ればいいんだよwww」
って、結局打たずに画面閉じた。
その夜、久々に夢を見た。
子供の頃の夢。
川辺で、ユイと石投げしてるやつ。
あいつが笑って、
「もっと飛ばせるでしょ」
って言ってて。
俺が。
「任せろwww 100回バウンドさせたるwww」
って叫んでるやつ。
目が覚めたとき、
なんか、変に胸が痛かった。
理由もなく、泣きそうになった。
「なぁユイ⋯…大丈夫って、ほんとに大丈夫なんか…⋯?」
そう呟いた俺の声には、笑いのwwwはつかなかった。
「おいユイwww 元気かよwww」
と、いつも通りのノリで送る俺のメッセージ。
返信は、すぐには来なかった。
数分後、ようやく返ってきた一言。
「元気」
短っっっwww
「お、おうwww それだけかよwww」
ってすぐに送ったら。
「うん」
また短っっwww
普段ならここで俺は何かしらボケて笑わせようとするんだけど、
なぜかその日は空っぽの気持ちで、
「なんだよそれwww もっと話そうぜwww」
って送ってた。
でもユイからの返信は、だんだん減っていった。
「最近どう?www」
「疲れた」
「え?何があった?www」
「学校」
「マジかよwww ちゃんと寝てる?www」
「寝てる」
「よかったwww じゃあ今度遊ぼうぜwww」
「うん」
返信はいつも短くて、冷たくて、でも俺はそれでも必死に笑わせようとしてた。
「おいユイwww笑ってくれよwww頼むwww」
でも返事は、もうほとんどなかった。
「ユイ、今日も来ないのかよwww」
夜遅くに送ったメッセージは既読になったまま、返事は来なかった。
俺はスマホを握りしめて、何度も画面を見返す。
「なんでだよwww なんで返さねーんだよwww」
気づけば、部屋の中は静かで、
俺の笑い声はどこにもなかった。
翌日、学校でユイを見かけた。
遠くから見ても、やっぱり痩せてて、顔色も良くなさそうだった。
「おい、ユイwww」
俺は大きく手を振って呼びかけた。
ユイは、ちらっとこっちを見て、
「……うん」
それだけだった。
その声は小さくて、無理に出したみたいに聞こえた。
「なあ、無理すんなよwww」
「……大丈夫」
でも、目は笑ってなかった。
帰り道、俺はいつものようにスマホを取り出した。
「もう一回だけ送ってみるかwww」
『ユイ、無理すんなよwww オレはいつでもここにいるからwww』
送信ボタンを押したあと、画面の前で息を殺した。
でも、返事はなかった。
その夜、俺は久しぶりに涙が出た。
笑いなしで。
ユイが教室にいない日は、
俺の笑いもどんどん減っていった。
「おいユイ、元気かよwww」
最初はそんな調子だったけど、
「ユイ、返信くれよ」
「ユイ…?」
気づいたら、ただの名前呼びになってた。
ある日、学校帰り。雨が降ってた。
俺は傘を持っていなかった。
ユイが突然現れて、無言で傘を差し出した。
「これ…」
その一言に、
「ありがとう」しか言えなかった。
その夜、メッセージが来た。
「…⋯検査結果、出た」
文字だけで震えた。
「大丈夫かよ…⋯?」
俺は返信を打ったが、返事は遅かった。
「……難しい」
ユイの言葉は短くて冷たかったけど、
俺は読み取った。
「でも、俺はここにいるからな」
病院の白く冷たい廊下で、俺は何度も待ちぼうけを食らっていた。
ユイの診察が長引くたびに、胸の奥に重たい石が落ちるようだった。
あの日から、俺のwwwは消えていった。
冗談を言う気にもなれなかった。
だって、ユイの体は日に日に弱っていっているのが、俺の目に焼き付いていたから。
待合室の窓の外で、小さな風が揺らす木の葉をぼんやり見ていた。
目の前の世界は動いているのに、俺の中だけが止まっている気がした。
診察が終わって、ようやくユイが現れた。
その顔は白く、疲れきっていた。
けど、少しだけ微笑んでくれた。
「タケシ、ありがとう」
その声は震えていて、でも確かな温もりがあった。
胸が締めつけられる。
俺は言葉を探した。
「俺で…⋯いいのか?」
素直な気持ちを伝えたら、ユイはゆっくりと頷いた。
「うん…」
それからの時間は、言葉よりももっと静かなものだった。
笑い声も、ふざけたwwwもいらなかった。
俺はただ、ユイの隣にいることだけを考えた。
病室の薄暗い光の中で、ユイの手をそっと握った。
「怖くないのか?」
震える声で聞くと、ユイは静かに首を振った。
「怖いよ。でも…⋯タケシがいるから」
その一言が、どれだけ俺の心を救ったか。
涙が溢れてきて、必死にこらえた。
俺はその時、初めて気づいた。
もう、wwwはいらないんだと。
必要なのは、ただ隣にいること。
それだけでいいんだと。
時間はゆっくり流れていった。
ユイの呼吸を感じながら、俺は小さな声で話し続けた。
「ずっと一緒だ」って。
その言葉が、ユイの心に届くように祈りながら。
病院の薄暗い病室は、日々が淡々と過ぎていく場所になった。
ユイのベッドの横で、俺はただ時間を潰しているようで、実は心の中は荒れていた。
毎日見る彼女の顔は、かつてのクールで無表情なユイとは違っていた。
表情はどこか柔らかくなって、時折弱い笑みを見せてくれることもあった。
でも、どこか儚くて、消えてしまいそうな影が見え隠れしていた。
「タケシ、今日は来てくれてありがとう」
ユイの声はかすれていて、それでも俺には嬉しい言葉だった。
「毎日来るよwww」
そんないつものノリはもう出てこなかった。
俺はただ、小さな声で
「うん」
と答えた。
病室の窓から見える景色は、春から初夏に移り変わっていった。
外では子どもたちが遊び、街は活気づいている。
だけど、この部屋の中は時が止まったように静かだった。
俺はスマホを手に取ることも少なくなり、ユイと過ごす時間に全てを注いだ。
「タケシ…⋯こんなに近くにいてくれてありがとう」
ユイはある日、ぽつりと呟いた。
「なんで、俺のそばにいるんだよ?」
そう聞いた俺に、ユイは少し笑って答えた。
「私が怖いから…⋯でも、タケシがいると安心する」
俺はその言葉を聞いて、自分がどれだけ彼女の支えになれているのか実感した。
でも同時に、逆に俺自身がどれだけユイに支えられているのかも気づかされた。
彼女が弱くなるたびに、俺の心も壊れそうになる。
それでも笑顔でいようとする俺のwwwはもう消えてしまった。
ある日、病室の中で静かな沈黙が続いた。
ユイが眠っている隣で、俺は小声で話しかけた。
「ユイ、俺はさ…⋯お前が笑う姿が好きだったんだ」
「たとえクールで暗くても、たまに見せる笑顔が好きだった」
ユイは眠ったままだったけど、俺は続けた。
「だから、もしまた笑えるなら、俺はずっとそばにいるよ」
その言葉は、ユイに届いているか分からなかった。
でも、俺は伝えずにはいられなかった。
夜、ベッドの端で目を閉じる俺の頬に、一筋の涙が伝った。
笑いもいらない。
今必要なのは、ただ素直な気持ちを伝えることだけだった。
ユイが一週間だけ外に出られるって聞いた瞬間マジで信じられなかったんだよwww
「え、マジで?ホントに?www」
って何回もスマホ画面見ながら叫んじゃって、隣の家の犬に吠えられたくらいだよwww
病院の先生が、
「体調を見ながら短時間なら外出も可能です」
って言ってくれて、ユイも小さく笑ったんだ。
その笑顔見て、心臓がバクバクしたwww
「マジでこれ、奇跡じゃね?」
って思った。
家に帰ってから、俺はすぐに考えた。
「ユイに何かプレゼントしなきゃwww」
って。
でも、何がいいか全然思いつかなくて、スマホで
「病気でも喜ぶプレゼント」
って検索したのは秘密だwww
結局、地元の雑貨屋で、ユイが好きそうなシンプルで可愛いブレスレットを買ったんだ。
包装紙の上から何度も触ってたら、手が震えてるのに気づいて、
「俺www緊張しすぎwww」
って一人で笑いながらツッコミ入れてた。
ユイの家に着くと、玄関の前で深呼吸してからドアを開けた。
ユイはベッドで待ってて、少し痩せてたけど、いつものクールな表情が少し和らいでた。
「これ、どうぞ」
ブレスレットを差し出すと、ユイは驚いたように目を見開いた。
「タケシ…ありがとう」
その声は震えてて、俺は胸が熱くなった。
「ずっと一緒にいてくれる?」
ユイが聞いた。
「wwwおうよ、ずっとなwww」
俺は笑って答えたけど、その裏で涙がこぼれそうだった。
外に出て、久しぶりに感じる風の匂い。
公園のベンチに座って、ゆっくりとした時間が流れる。
ユイは少しずつ笑う回数が増えていった。
それでも、時々無言になって遠くを見る目は寂しそうだった。
「笑いながら泣くって、こういうことなんだな」
俺は心の中でつぶやいた。
一週間はあっという間に過ぎていったけど、
その中に詰まった思い出は、何よりも濃くて温かかった。
「またいつか、こうやって笑い合える日が来るよなwww」
そう言った俺に、ユイは小さく頷いた。
夜、ユイの家のベッドの横で、俺はそっとブレスレットを見つめた。
「wwwこれが、俺たちの約束だ」
その瞬間、胸の奥が熱くなって、涙が溢れてきた。
でも、俺は笑っていた。
一週間の外出が終わって、ユイはまた病院に戻った。
俺はあの短い時間が奇跡だったことを、まだ実感できないまま過ごしていた。
あの笑顔、あの小さな、
「ありがとう」
全部が心に焼きついて離れなかった。
その日の午後、俺は学校にいた。
スマホのバイブが震えた瞬間、胸がざわついた。
画面には「病院」の文字。
頭が真っ白になった。
「ユイさん、急変しました」
電話口の声は冷たく事務的だったのに、俺の世界が崩れ落ちる音が聞こえた。
「え、は?うそだろwww冗談だろwww」
口から勝手に
「www」
が出た。
でもそれは、笑いじゃなく、祈りみたいな震えだった。
走った。
学校を飛び出して、息が切れて、足が動かなくなるまで走った。
病院の廊下がやけに長く見えて、足が鉛のように重かった。
病室に入った時、ユイはもう酸素マスクをつけられていて、目を閉じていた。
機械の音が、規則正しく響いている。
白いシーツに包まれた小さな身体。
あの時見たブレスレットが、手首でかすかに光っていた。
「ユイ!!おいユイwww起きろよwww」
叫んだ。
でも返事はなかった。
「なあ、笑ってくれよwww頼むよwww」
声が震えて、涙で視界が滲んだ。
看護師が肩に手を置いたけど、俺は振り払ってユイの手を握った。
冷たくて、細くて、それでもまだ温もりがあった。
「ユイ、ずっと一緒だって言ったじゃんwww」
涙が頬を伝った。
機械の音が途切れた。
病室の空気が、凍りついたみたいに静まり返った。
俺の
「www」
はもう声にならなかった。
ただ
「ユイ…⋯ユイ…⋯」と呟くことしかできなかった。
長い長い沈黙のあと、俺はユイの手を胸に当てて、泣き崩れた。
初めて、心の底から泣いた。
家のドアを開けた瞬間、世界が崩れた。
ユイがもういないっていう現実が、重く重くのしかかってきて、俺はその場にへたりこんだ。
「⋯⋯嘘だろwww」
声にならない声が漏れた。
それは笑いでも皮肉でもない、ただの虚無だった。
部屋の隅に倒れ込んで、膝を抱えて震えながら涙が止まらなかった。
「なんでだよ…⋯なんでユイが…⋯」
声が嗚咽に変わって、俺はただ泣いた。
笑いのwwwはもうどこにもなかった。
あの日の笑いが嘘みたいに消えてしまった。
時間なんてどうでもよくて、ただ泣いて泣いて泣き続けた。
窓の外の青い空も、風に揺れる木の葉も、全部が遠い景色になった。
俺の中にぽっかり穴が開いて、どうやっても塞がらなかった。
「あいつはいつも冷たかったのに、俺には笑ってくれたんだよな…⋯」
涙でにじんだ視界の中で思い出す。
ユイの無表情な顔、クールな言葉、でも俺だけには見せてくれた小さな笑顔。
その笑顔が、今でも胸の奥で光ってる。
部屋の中で震えながら、俺は声にならない声で呟いた。
「ユイ…⋯ごめんwww」
「もっと笑わせたかったのに、もっと強くなりたかったのに…⋯」
自分の弱さに押しつぶされそうになりながら、涙は止まらなかった。
やがて涙が枯れて、静かな夜が訪れた。
だけど俺の心はまだ、壊れたままだった。
ユイが亡くなってから数日後、俺は決心した。
ずっと避けてきたけど、ユイのお母さんに会いに行くって。
「お母さん、俺、行くわwww」
とりあえずLINEで伝えたけど、手が震えててwwwがいつものように出るか不安だった。
でも、それだけが俺の唯一の逃げ道でもあった。
ユイのお母さんの家は、小さな木造の平屋だった。
玄関の扉をノックすると、優しい声が返ってきた。
「どうぞ」
中に入ると、あの日と同じあの空気が流れていた。
仏壇の前に座るユイのお母さんは、昔の写真を見つめながら、静かに微笑んでいた。
「ユイのこと、色々教えてもらえると嬉しいわ」
そう言われて、俺は少し戸惑いながらも口を開いた。
「ユイってさ、クールで無口だったけど、俺にだけはよく話してくれたんだよwww」
「体育祭の時、俺が転んだら、笑いながら心配してくれてwww なんか、あいつらしくて笑ったわwww」
お母さんは静かに頷きながら、時折涙ぐんでいた。
「ユイはね、あなたみたいに友達想いの子だったのよ」
「あなたがいてくれたから、彼女はどれだけ救われたか分からない」
そう言われて、俺の胸が締め付けられた。
「高校の時も、あなたにだけは弱音を吐いてた」
「私は知らなかったこともたくさんあった」
俺はその言葉に涙が溢れ出して、止まらなくなった。
「ユイは最後まで、あなたと一緒にいることを願っていた」
「だから、どうかあなたも前を向いてほしい」
俺は仏壇の前に膝をつき、手を合わせた。
「ユイ、ごめんwwwもっと笑わせたかったのにwww」
「でも、お前がいたから、俺は強くなれた」
涙が頬を伝い、声にならない嗚咽がこぼれた。
ずっと閉じ込めてた感情が溢れ出して、俺はその場に崩れ落ちた。
お母さんはそっと肩を抱いてくれた。
「泣いていいのよ、全部出しなさい」
俺はただ、涙を流しながら、ユイとの思い出と、お母さんの優しさに包まれていた。
その夜、家に帰る道すがら、俺は空を見上げた。
「ユイ、俺はお前の分まで生きるよ」
「ずっとずっと、忘れねぇよ」
ユイの家の片付けをしていたら、ふと埃をかぶった小さな木箱が目に入った。
開けてみると、写真や古いメモ、そして一通の分厚い封筒が静かにそこにあった。
「これ、まさか…⋯?」
震える手で封を切ると、中からユイの丁寧な文字が見えた。
「タケシへ」
まずは読んでくれてありがとう。
私はもうこの手紙を直接渡せないけど、あなたに伝えたいことが山ほどある。
私たちの時間は本当に短かった。
あなたが笑いながら俺のこと支えてくれたこと、私はずっと忘れない。
あの馬鹿みたいな笑い方で、でも本気で私を励ましてくれてた。
ごめんなさい。
病気であなたに辛い思いをたくさんさせてしまったこと。
あんなに元気だったあなたを悲しませて、本当に申し訳ない。
でもね、ありがとう。
あなたの存在が私の一番の支えだった。
あなたがくれた笑顔や優しさが、どんなに私の心を温めてくれたか、言葉じゃ言い表せない。
私が無口でクールでいる理由、知ってた?
本当は誰よりも不安で怖かった。
でも、あなただけにはそれを隠せなかった。
体育祭の日、あなたが転んだとき、私が笑ったのは、緊張と心配が入り混じったせいだったんだよ。
その時、あなたは
「大丈夫www」
って笑ってくれたけど、私はその笑い声で泣きそうだった。
高校に入ってからも、あなたにだけは本当の私を見せてた。
笑わない私が、笑う数少ない瞬間。
それがあなたといる時間だった。
あなたに謝りたいこともある。
もっと強くなりたかった。
あなたをもっと笑わせたかった。
でも、私はそれができなかった。
だけどね、あなたがいたから、私は最後まで頑張れた。
あなたの笑いが私の暗闇に光をくれた。
これからはあなたの人生を、自分のために生きてほしい。
悲しみの中でも、笑顔を忘れないで。
私の分も、たくさん笑ってほしい。
私はいつもあなたのそばにいる。
見えなくても、感じてくれると信じてる。
最後に、心から伝えたい。
「ほんとうに、大好き。ずっと、ずっと」
ユイ
タケシは手紙を握りしめ、何度も何度も声に出して読んだ。
涙が止まらず、嗚咽がこみあげたけど、そこには確かな温もりと希望があった。
「俺もだよ、ユイ」
「俺はお前の分まで、絶対に生きる」
そう誓って、タケシは深く息を吸い込んだ。
夜が明けて、静かな朝が訪れた。
タケシは窓の外を見つめていた。
昨日までの涙と悲しみが、少しずつ、やわらかな希望に変わり始めているのを感じていた。
手には、ユイの手紙。
まだ温かく、まるでユイの声が直接聞こえてくるみたいだった。
「大好きだ」
心の中で何度も繰り返す言葉。
「ずっと、ずっと」
これからも続く約束。
もうwwwばかりの自分じゃない。
本当の気持ちを伝えられる、自分になれた気がした。
涙はもう、悲しみのためじゃなく、感謝と前に進む力のために流れていた。
そして、タケシはゆっくりと目を閉じた。
「ユイ、俺はここから歩いていくよ。お前の分まで、ちゃんと生きる」
窓の向こう、朝日に染まる世界は、まだ見ぬ未来の始まりだった。



