Naked Love〜涙の跡を舌で辿る時〜

離れていても、どんなに気持ちを潰そうと頑張ってみても。

結局は、気持ちを抑える事は出来なくて…彼のコートのポケットに冷たかった右手を恋人繋ぎのまま入れられ、彼がしていたマフラーをぐるぐる巻にされる。

「こ、れじゃぁ、悠久くんが風邪引いちゃう!」

「ん?俺?いいんだよ。希子ちゃんから体温分けて貰ってるからね」


ロンドンにいた時、どれ程の美女と戯れてきたのか…昔からモテてはいたけれど…逢えなかった時間にジェラシーが沸々と湧き上がる。

「希子ちゃんだけだよ」

「え?」

「何処にいても何をしてても、俺の心の中は希子ちゃんだけだった」


狡い。
そんな、はちみつをとろとろと溶かしたような瞳で、私を見つめてそんな事を言うなんて……。

「悠久くんて、そういうタイプだったっけ…」

こてん、と小首を傾げてコートの中で繋がれた指をぐーぱーぐーぱーしていたら、すぐにするりと繋ぎ直される。

こういう、スマートさは昔から変わらない。
でも、だからこそそこに惹かれ、彼に迫り狂う女性の影が私の胸を締め付ける。


なのに、彼は私の不安を意図も容易く溶かしてしまう。
逢えなかった分の寂しさを埋めるように。


「希子ちゃんに拒否されたら、潔く諦めようって思ってた。なのに、凄く綺麗になった希子ちゃんを見付けて、そんな希子ちゃんの隣を俺以外が…って思ったら、諦められなくなって。ごめん。いっぱい迷惑かけてるよね」

また、眉をハの字にしてそんな事を言う彼は、とても幼く見えて胸がぎゅっとなる。
多分それは、私にしか見せないだろう顔。

でも、何処か素直に彼の言葉を聞き入れられないのは…きっと、私に何も言わずに姿を消してから置いてけぼりにされた、宙ぶらりんな私の気持ちのせいだと思う。

「悠久くんはさ、なんで…私を攫って行ってくれなかったの…?」 

ふと口をついた言葉。
こんな風に聞くなんて、狡いだけなのに。
彼を困らせるだけなのに…。

でも、彼は一息間を置いてから、私の方を向いて…。

「俺が希子ちゃんの隣に相応しくないって…ただのエゴなのにね。あの時はそれしか考えられなかったんだよ」


意味が、分からなかった。
だって、私の気持ちを何時も何時もかわしていったのは彼の方で、私の気持ちなんて一度もその視界に入れる事もしなかった癖に…?

困惑している私の顔を屈み込むようにして目線を合わせて、彼はこれ以上無いくらい切なそうな吐息で、私の名を呼んだ。


「希子ちゃん」

「な、に…」

揺れてしまい、少しだけ掠れる声。
不安に揺れるその超えは、自分でも笑ってしまうくらい震えていた。

「泣かないで…なんて、泣かせてるのは俺だけど…でも、希子ちゃんを泣かせてまで逢いに来たわけじゃないんだ」

「ど、いう…こと…?」

「逢えなかった分の罪滅ぼしなんかじゃなくて…一人の男として、希子ちゃんの隣をきちんと寄り添える様になりたい」

「わけ、分かんない」

「あの頃は、純粋に慕ってくれる希子ちゃんの想いに完全に甘えてたんだ。ずっとずっと…このままずっと、俺を慕ってい続けてくれるって…でも、なんていうか…やっぱり年の差を考えるとどうしても気持ちに踏ん切りが付かなくて」

「…悠久くんは、ほんとにバカ。そんな風に思っていてくれたなら、私自身に言ってくれたら良ったのに!ただ好きだって一言伝えてくれたら、こんなに私は脆くならずに済んだのに…」


彼から逃げるようにして俯くと、唇をきゅっと結んで涙を堪えた。
それでも、ポロポロと零れて来てしまう感情は…正に愛でしかなく、本物の彼が今私の隣に居てくれる事が嬉し過ぎて仕方がない。
そうこれは、歓喜の涙なんだ。


コートの裾で乱暴に涙を拭こうとしたら、やんわりとそれを咎められる。
彼の整えられた指がそっと私の涙を拭っていく。

「ごめん、泣かないで。全部俺のせいだから、希子ちゃんは自分を責めないで」