Naked Love〜涙の跡を舌で辿る時〜

あの後、付き纏うことをしなかったであろう彼から、逃れる様にして会社に辿り着くと、既に出勤していた先輩がにっこりと笑い掛けながら、此方に歩み寄って来てくれた。

「柏木さん、おはよう。今日も早いわねー!早番の私と同じってなんだか嬉しい。この仕事を好きってそれくらい思ってくれてるんだもんね」

最初の頃は、嫌味なのかも…なんて不安だったけれど、うちの課内は皆フレンドリーで仲良し和やか課として有名で、私も新人の頃からこのぽかぽかとした空間に仕事のモチベーションを上げて貰っている。

「おはようございます!成宮先輩!やっぱりこの会社に入って良かったと、思ってますー!」

「うふふ。それこそ可愛い後輩を持てて、私も良かったわ」

なんて話をしつつ、他の社員には見せられなれない情報が入っているので、全て鍵を賭けている課内全員のパソコンを開いて立ち上げる。

全てが作動したか確認をしてから、コートとマフラーを脱いで、ロッカーに向かう。

お財布と、サラッと治せる必要最低限の道具が入っている程度のメイクポーチ、それから我が子と同じくらい大切なノートパソコンを入トートバッグにれて、そこにスマホを手にして席に戻ると、後から先輩も席に付いた。

「そう言えば…昨日、柏木さんアポ取りたいって言ってたイケメンさん、うちの会社と業務連携する会社のお偉いさんなんだって。私もあまり柏木さんと接触させない様にす
るから、気を付けようね」

と、先輩は心から心配する様に、そう言ってくれた。
その言葉に、胸がぐっとなって泣きそうになるけど、薄く引いたアイラインがよれてしまうと思って、小さく頷いてから、

「ありがとう、ございます」

と言うと、ぽんぽん、と頭を撫でられた。

さて、と。
先輩がパソコンに視線を向けたから、それに習って私も自分のパソコンに意識を集中させる。

これから先ゆくゆくは、小さくてもいいからプロジェクトのチーフリーダーなんて最高の役割を一任させてもらえたら、そんな事に憧れては、心の中で口元が緩む。

まぁまぁ、今は目の前にある仕事を慎重に進めて、来年度から入ってくる新人達の育成に関わるノウハウを書き溜めていたファイも、もう一度確認したい。

こう考えるとやる事は多いけれど、それでも気持ち良くこうして仕事が出来るのは、やっぱり恵まれた環境にあるからこそだ。

私は、目の前にあるパソコンと自分のノートパソコンを眺めてから、ポイントを色々と押さえておいたメモから、ポップアップと、資料から会議に使う書類のレイアウトを作る事に集中する。

それから、どれくらい経っただろうか?
気付けばお昼時間を過ぎていて、目の前の先輩がんーっ!と両手を上で組んで、背伸びをしていた。

『柏木さーん、今日お昼、お弁当?』

「あ、いえ。今日は久し振りに外で食べに行こうかなーなんて考えてました!」

「そうなの?じゃあ、美味しいイタリアンのお店が最近出来たんだけど、行ってみない?…店長さんがイケメンなのよー」

「えー!イタリアンなんて、それこそ久し振りですー!ぜひぜひ連れて行って下さいっ!」

「じゃ、決まり!支度して出よっか」

と、先輩がドアの方を指差すので、お財布とスマホを持って先輩と並んで歩く。

その道すがら、うちの業務もそろそろAIへとシステムチェンジして欲しいよねぇーとか、今度二つ上の先輩の片岡さんが、プロジェクトリーダー抜擢されるらしいよー、羨ましいね…。なんて話に花を咲かせて歩いていた。


「あ、ここ!着いたよ〜。ほんっとに何食べても美味しいから、楽しみにしてて」


カランコロン


小気味の良いドアベルで迎えられた店内は本当に明るくていたイタリアン感が、凄かった。
それに圧倒されてぼーっしていると、視界の果てに先輩が見える。
既に常連さんの様で、出迎えてくれた店長さんに、最大級の笑顔で、時折軽いボディータッチを含め、とっても楽しそうに会話ている。


確かに、先輩の言う通りのイイケメンさんだな…。
そうか、先輩の好みってこういう人なんだ。
そんな事を考えいると、ハッと我に返ったのか、視界に私を納めて、照れ臭そうな顔をしてから、私を手招きしてくれる。

 「えっと、此方が此処の店長の加地怜(かじさとる)さん
で、此方は我が課のアイドル柏木希子ちゃん。今後も沢山連れてくるから、覚えといてね?」

と、先輩が代わりに軽く自己紹介をしてくれたのでペコリと頭を下げると、店長さん、いや、加地さんが、満面の笑みを私の方へと向けてくれた。


「おー…キミがあの"希子ちゃん"かぁ。うん、はーちゃんが可愛がってるのが分かるなー」

「ちょっと!人の事あだなで呼ばない約束でしょ!さーくんは!」


んんん???

確かに先輩の下の名前は『春陽(はるひ)さん』
店長さんの名前は『さとるさん』

しかして??


「あの…違ってたらすみません。お二人ってお付き合いされていらっしゃるんでしょうか…、、、」


そう、小さく伺ってみると…二人は顔を見合わせて爆笑し始めた。


「~っ!可笑しくて涙出そう!ほらホールの子達が困ってるじゃないの!早く席に案内して」

「ふははっ!はいはい、仰せのままに。お客様」


そして、案内された席は何故か六人掛けの席で…。
はてなマークを頭から飛ばしたままの私に、先に置いてあるピッチャーから更に重ねてあったコップに注いでくれた。


「ごめんねー。アイツ…実は、私の幼馴染兼彼氏なの。だから、柏木さんよく分かったなーって。誰連れて行っても
殆ど気付かれなかったから。滅茶苦茶胡散臭いけど優しいからさ、偶に相談に乗って貰ったりしてて…。その内にねなんとなく…」

頬をほんのり赤くしてそう語る先輩は、凄く可愛くて可愛くて、私もこんな風に思えていたら何も変わらずにいられたのかな、なんて少しだけ思ってからそんな事は無理だと首を横に振った。