Naked Love〜涙の跡を舌で辿る時〜

そして、就業時間が来て、「お疲れ様」の言葉と共に、ぽつり、ぽつり、と席が空席になっていく、課内。

私もそれに合わせて、帰り支度をしながら、未だ課内に残っている残業組に軽く会釈をし、「お疲れ様です」と言って、そのままエントランスへと続くエレベーターに乗り込み、降りてからタイムカード代わりの社パスをセキュリティゲートにピッと押し付けた。

「あー…今日は疲れた……」

カバンを掛け直して、肩をコキコキと軽く回す。
今夜は昨日残ったポトフに、何を合わせようかななんて平和な事を考えながら、社外に出た。

朝から暫くぶりに外へと出たら、大分風か強くなっている。
悴んでくる指先を両手で静かに擦って暖を取った。
こういう時、ロングヘアーだと耳の部分が其処に隠されて、寒さを凌げて良かったと思う。

びゅうっ

ストールじゃなくて、少し厚手のコートを着て来て良かった。
先週はまだ、厚手のストールだけでも凌げた寒さだったけれど、週を明けたら大きな寒波がやって来ていて、流石に11月半ば過ぎにもなると、どれだけ強がってもコートの出番は必然的に来てしまう。
大きく吹いた風は、ビル風となって更に温度を下げて、此方に向かって私に無遠慮にぶつかって来る。
私ははぁーっと、手に息を吹きかけ家路へと足を速める。


月末の月曜日は、やっぱりそれなりにバタバタするものだ。
でも、好きな事をしている訳だから、其処に気持ち的な疲労は感じない。
寧ろその忙しさは、充実感に成り代わる。

疲れた、なんて言いつつもまだ頭の中には預かった資料のレイアウトをどうするかを、アレコレ考えていた。

と、目の前に突然現れたのは繁華街の、丁度真中の所にあるツリー。
キラキラと色とりどりの輝きを放ち、「あぁ、そういえばもう少しでクリスマスかぁ」と思った。
そう言えば、大分前から忙しい街並みの中で、いそいそとイルミネーションの準備をする人を見掛けたような…?

あまりにも、心に余裕が無くて暫く周りを見ていなかったからか、こんなにもイルミネーションが夜の街を輝きに満たしていたなんて、知らなかったんだ。


「何時、点灯式とかしたんだろ?マジで知らなかったなー。私、興味無さ過ぎだろ…」

苦笑を漏らす。
でも、それは別に落胆の意味は無く…華金ではなくてもその日が他の日も変わらず人の流れは多いのだったから、重ならなくて良かったという単なる、安堵。

先述もしたけれど、人混みも寒さも大嫌いな変わりはないし、出来れば私に向けて迫って来て欲しくはない。

けども、誰かの生活感を感じなければ、孤独は乗り越えられないもので…。

矛盾があるけれど、やっぱり人恋しくなる時があるから、何処かしらでこういう人の息吹みたいなものに触れられると、心が和む。
荒んだ心が浄化される気持ちになるんだ。


ぴたり、

足を止めて、ツリーを眺める。
眩い光に、段々と心の中が温かくなった。


「今年は、赤いのが多いのかな。きれい…」

気付けば、ツリーの近くまで歩いていて、見上げていた。


キンッ

と、冷えた空気に空は透き通り、星が瞬く。
その下に呼応するように佇むクリスマスツリー。

そのコントラストが、なんだか私の心を鷲掴みして離さない。

私は暫くそのままその場に立ち止まり、ツリーを見上げた後、さぁ切り替えようとはぁっと白い息を吐いてから、こつんこつんと何時もの様にアスファルトを掻き鳴らし、家路へと足を向けた。