「んん……もう朝……」
目をぱちりと開ける。
…………あ……、もうこんな時間……っ!!
今日は金曜日だから、フレンチトーストを作らないといけないのに……。
眠っている姉を起こさないように気をつけながら、ドタドタとキッチンに走る。
「卵、卵ー……あとは牛乳と、お砂糖を出して……そうだ、バターもいるっけ……」
冷蔵庫から卵や牛乳なんかを取り出して、そのあとはパントリーから、お皿を出す。
「ふー……できた……!!」
そっと息を吐いて、姉用のコップにコーヒーを注いだ。
「……ねぇ……!! レモンのはちみつ漬け作って!! 私が学校行くまでに!!」
「へ…………は、はい……」
朝、開口一番の姉の大声に、内心『理由くらい言ってよ』と毒づきながら返事をする。
今すぐ作ってよッ、早く!!と急かしてくる姉。
「朝ご飯はできています。食べていていただけますか?」
電子レンジを使えば、姉が支度し終わるまでにできるはず……。
レモンを輪切りにして、耐熱の瓶に入れて、はちみつを注いで……。
少しだけ温めて、そのあとすぐに冷蔵庫に入れた。
「ねぇ、はちみつ漬けは!? 遅いんだけど!!」
姉が催促してくる。 フレンチトーストもまだ半分しか食べてないのに。
「……もうすぐできます」
「あっそう!! てか今日のご飯多いんだけどぉ!ダイエット中だって言ってるでしょ!!」
お皿にまだ三分の一が残っている状態で、席をたった姉。
……もったいないな……また、口をつけてないとこだけ食べよっかな……。
そんなことを考えながら、冷蔵庫を開く。
姉に渡す用と別に作っていた、味見用の瓶を開けた。
「ん……もういけるかな……」
レモンとはちみつが家にあって良かった……。
「あの、できました」
「はー!! やっと!? ほんっと遅い」
グチグチと文句を言い続ける姉に向けて、瓶を突き出した。
「これです。 どうぞ」
無言で受け取った姉は、玄関までズンズンと大股で歩き、ピタリと止まった。
不思議に思ってお皿を洗いながら見ていると、チャイムが鳴った。
「あっ、リョウくん!! はちみつ漬け、ほら作ってきたよっ♡」
「わぁ、凄いな……この短時間で作るなんて難しかっただろ。 急に頼んじゃって悪いな」
「そこは、愛の力で頑張ったよ♡ それに、リョウくんが食べたいって言ってたからっ!」
「嬉しいな。初カノがこんなに可愛いヤツで」
一昨日別れたばっかりなのに、もう新しく男子と付き合っている姉。
彼がはちみつ漬けを食べたいって言って、姉が作ることになった……ってことかな。
実際に作ったのあたしなんだけどな……と姉に目を向けると、隣の彼に何かを感じた。
「……ウソっぽい…………」
姉がウソをついているのは分かってたんだけど、彼の方にもウソの気配を感じたんだ。
「はちみつ漬けってほんと好きなんだよなー」
彼がそう言っている時は、ウソの感じがなくなった。
「えへへ〜。頑張って作ったんだぁ」
「俺の彼女第一号は、最高の女だな」
二人がそう言い合っている間に、双方にウソの雰囲気が立ち込めた。
―――姉もウソをついていて、彼氏の方もウソをついてるってこと……?
そうとしか考えられなくて、お皿を洗う手を止めて見入ってしまう。
姉のウソは、“はちみつ漬けを自分で作った”ってもの。
彼氏側は……彼女第一号ってところ? それとも、姉のことを最高って言ってるところ?
「やっぱり、奈由って最高だよ。 奈由のこと、すっごい好きだ」
彼氏側からウソの雰囲気が消えた。
てことは、さっき言ってた中の、“初カノ”っていうのがウソだったんだ……。
「ふふっ。そんなことより早く行こう? 私もリョウくんのこと、だーいすきーっ♡」
彼氏に抱きついた姉を見て、目を逸らした。 見てられない……。
扉が完全に閉まったあと、考えを巡らせる。
―――私、“ウソ”が分かるようになったってことなの…………?
確かに、ウソの気配をいっぱい感じた。
姉も慣れてるからナチュラルにウソを吐くし、分かりやすかった訳じゃないはず……。
って、そんなことより、ご飯食べなきゃ遅刻しちゃう……!!
姉が口を付けていないところを切り分けて、頬張った。
やっぱり、フレンチトーストは私好きだな……。
食べきると、大急ぎでお皿を洗って、支度を済ませた後すぐに学校へと駆け出した。
「間に合った……」
ふぅと、乱れた息を整えるように深呼吸をした。
「おはよう業田さん」
朝から嫌な声を聞いた……と、うんざりしたような瞳を向ける。
「あはは、そんな目で見ないでよ。 俺、傷ついちゃうよ? 結構メンタル弱いんだから」
「……そうなんだ」
目を見ず、顔をそむけて答えた。
「つれないねー……あ、そういえば宿題やった? 俺はやったよ。でも超ムズかったな」
胡散臭い……そんなことを考えながら、ふと國弘の姿を目をやった。
「っ……!!」
―――國弘の周り、ウソの気配しかない…………。
思わず、ゴクリと息を呑む。
「……どうしたの?」
心配そうに尋ねた彼の周りから、尚もウソの気配は消えない。
「……くにひ、ろ…………ウソ、ついて……」
「……え? なんのこと……」
ほんとに何も分かってなさそうなのに、いつまで経ってもウソの気配を纏っている國弘。
それでも、一瞬でピリついた空気に、私は口を噤んだ。
「……なんでも、ない」
……ウソの気配が常時あるなんて、信じられない……。
……―――國弘って、何者なの…………?



