元プロバンドマンの部下は、私に気づかない~まさかの再会オフィスラブ~

「どうするんですか?」


「代役なら、ここにいます。」


そう言って、彼は湊の肩をポンと叩いた。


「蓮さん、何言ってるんですか!」


気色ばんだような声を出した湊に


「40分もあれば、音合わせの時間には十分だろう。」


平然と言う神崎の顔を、和那は思わず見る。


実を言えば、この事態が耳に入った当初から、和那の頭には同じ解決策が浮かんでいた。それしかないと。でも、それを言い出せなかったのは、湊が応じてくれるとは、とても思えなかったからだ。果たして


「無理です、無理に決まってる。」


返事は、即答だった。


「俺はもう1年以上、ベースに触れたこともないんだ。そんな奴が、プロのフェスに参加するなんてあり得ない。いやあってはいけないんだ。」


「その程度のブランクで錆び付いちまうのか、お前の腕は?」


「蓮さん・・・。」


「お前が音楽を捨てた理由は聞いている。だが、結局今、お前はまたこの業界にいるじゃないか。」


「・・・。」


「お前が音楽を忘れられない、そしてまだ音楽を好きでいる何よりの証拠だ。」


「それは・・・たまたま就職した会社が、このフェス案件を請け負ったからで、俺の意思じゃない。」


「まぁいい。今、そんなことを議論している暇はない。つべこべ言わずに弾いてみろ。」


「無理です。」


「湊・・・。」


「俺も元プロミュ-ジシャンの端くれです、多少のプライドもある。今の自分が、観客の前に立てる立場かどうかは自分が一番わかってる。無理なものは、無理です。」


湊はそう言い切った。