元プロバンドマンの部下は、私に気づかない~まさかの再会オフィスラブ~

フェス当日がやって来た。


朝から会場は騒がしかった。機材搬入、リハーサル、出演者対応、それらに伴うスタッフの声が響き渡り、巨大なライブ会場が、一つの生き物みたいに動いている。


和那はインカムを押さえながら、慌ただしく歩いていた。


「Bステージ、転換五分押し!」


「了解!」


「物販列整理入って!」


「今、向かってます!」


飛び交う連絡。そんな中で、湊は黙々と動いていた。


出演者誘導、タイム確認、現場調整・・・。


驚くほど自然に。まるで、ライブ現場の空気を身体が覚えているみたいに。そんな彼を横目で見ながら


(やっぱり、違う・・・。)


和那は正直、感心していた。


(彼がいれば・・・大丈夫。)


そんな思いが浮かんで来る。

 
だが、夕方。事件は突然起きた。


「ベーシストが来てない?」


スタッフの叫び声がバックヤードに響き、空気が一気に張り詰める。


この後、出演予定のバンド『STILL BLUE』。そのサポートベーシストが、まだ到着してないという。


「連絡つかないんですか?」


急を聞いて駆け付けた和那が、リーダ-の神崎蓮(かんざきれん)に尋ねると


「携帯に何度も連絡を入れてるんだが、繋がらない。」


神崎は苦虫を嚙み潰したような表情で言う。