元プロバンドマンの部下は、私に気づかない~まさかの再会オフィスラブ~

「好きだったんでしょ?」


その和那の問いに、彼は一瞬だけ、目を伏せた。そして


「どうなんでしょうね?まぁ、やってたんだから、その時は好きだったんでしょうね。きっと・・・。」


曖昧に答える。『好きだったんでしょうね、きっと』、過去形にしようとしている、たぶん無理やり・・・。


「今は?」


思わず尋ねていた。彼は少し黙る、そして


「わからないです。最後の方は好きでやってるのか、ただの意地だったのか、自分でもよくわからなくなってましたから。」


ポツンと答えた。その彼の答えに、一瞬表情を歪めた和那は


「この案件に関わってるの、辛い?」


思わず尋ねてしまい、すぐに後悔する。それを今更聞いて、どうなるのだと思ったからだ。でも湊はそれには答えずに


「南澤さんも音楽やってたって言ってましたよね?」


逆に和那に聞いて来る。


「うん。」


「好きでしたか?」


「うん。私は正直、上手じゃなかったけど、でもキーボ-ド叩いてる時間は、本当に楽しかった。」


和那はそう言って、湊を真っすぐ見た。


「そうでしょうね。」


「えっ?」


「この前のフェス会場での南澤さん見てて、つくづく思いましたもの。ああ、この人、音楽が心底好きなんだなって。」


「朝比奈さん・・・。」


思わぬ湊の言い草に、和那は驚いたような表情を浮かべたが


「俺はね、南澤さん。はっきり言って、音楽から逃げて、この会社に入ったんですよ。」


次の湊の言葉で、ハッと息を呑んだ。