元プロバンドマンの部下は、私に気づかない~まさかの再会オフィスラブ~

そのまま、この日は特段の出来事も起きず、各自がそれぞれの業務をこなして行くうちに、終業のチャイムが鳴り響き、社員たちが一人また一人と席を立って行く。


「南澤さん、今日はお先に失礼します。」


湊もその流れに乗ろうと、和那に挨拶をすると


「あっ、朝比奈さん。ごめん、ちょっと面談室いい?」


と言われ、思わず顔をしかめたが、当然拒否出来るはずもなく


「はい。」


頷くと、立ち上がった彼女に続く。


向かい合って座った途端


「俺、なんか仕出かしましたか?」


最近はご無沙汰だが、ここで何度和那に説教されたことか。湊が表情を固くして尋ねると


「ううん、今日はそうじゃない。君にお礼を言いたくさ。」


和那は笑顔で彼に告げる。


「お礼、ですか?」


不思議そうな声を出す湊に


「今日のミーティングの君、よかったよ。」


「えっ?」


「積極的に提案してくれた。現場がちゃんと見えてたし、何よりも堂々と自分の意見を言ってた。」


和那は嬉しそうに言った。その彼女の表情に、一瞬驚いたような表情を浮かべた湊は、すぐに少し困ったみたいに笑うと


「ありがとうございます。」


と低い声で礼を言った。


「音楽、やってたんだね?」


本当は知ってるくせに、和那は改めて尋ねる。その事実を、彼の口からちゃんと聞きたかったのだ。果たして


「ええ、まぁ・・・。」


つぶやくように湊は答えた。