元プロバンドマンの部下は、私に気づかない~まさかの再会オフィスラブ~

そして和那は彼に近づいた。


朝比奈(あさひな)さん。」


呼び掛けたその声に反応した彼は、和那の姿を認めると


「すみません。」


小さいけど、低く響く謝罪の声を発する。一瞬だけ目が合う、でも・・・その目は、萎縮したようにすぐに逸らされた。


その姿を見た和那の瞳に失望の色が差す。


(やっぱり、気づいてない・・・。)


だけど、そのあとに彼に発した


「面談室。」


「えっ?」


「落ち着いたら来て。」


和那の言葉は冷徹な上司としてのトーンだった。


「はい。」


長身、少し癖のある黒髪・・・容姿は目立つが、その答えた声には、驚くくらい力がなかった。その姿に思わず、目を逸らした和那だったが、すぐに自らも事態収拾の一翼を担うべく、彼の前を離れた。和那が朝比奈(みなと)と面談室で相対したのは、それから1時間ほど後だった。

  
向かい合って座る、流れる沈黙、湊はどこか落ち着かない様子で視線を泳がせている。相変わらず、和那と視線を合わせようとしなかった。


「確認した?」


「して、ました。」


「してて、これ?」


「確認が不足してました、すみません。」


「不足してましたって、あっさり言ってくれるけど、影響が大きすぎると思わない?」


「申し訳ありません。」


また謝る、和那は小さく息を吐いた。