元プロバンドマンの部下は、私に気づかない~まさかの再会オフィスラブ~

そんな経緯を思い出しながら


(あの人は、何か知ってるのか?・・・。)


以来、内心に燻っている思いと共に、重い足取りで、彼女の後姿を追いかけていた。空は高かった。


まだ本番までは二か月近くある。だが、会場にはすでに鉄骨が組まれ始めていた。広い芝生エリア、仮設ステージ予定地。飲食ブース区画、搬入口、スタッフ動線・・・。何もないように見える場所に、無数の線が引かれている。


和那は、目を輝かせて歩いていた。


「やぁ、いらっしゃい。」


やがて、彼女たち一行に気付いた現場責任者が、挨拶に現れた。


「南澤です。今日はお邪魔させていただきます、よろしくお願いします。」


「こちらこそ。」


「作業の進行状況はどうですか?」


「順調だと思いますよ。まぁ、各方面からいろいろなご要望をいただいて、日々頭を悩ませてはおりますが。」


そう言って、責任者は穏やかに笑うと


「よろしければ、是非南澤さんにも忌憚ないご意見をいただければ。」


続けた。


「とんでもありません。」


この時は、そう言って、首を振った和那だったが、歩き出して、少しすると、表情を曇らせて立ち止まった。そして


「この導線だと混みませんか?」


現場責任者に呼び掛けた。


「メインステージ終演直後、人が一気に流れますよね。」


「確かに、よく気づきましたね。」


「来場者目線で歩いてみたら分かります。」


和那は笑った。

 
次の場所へ移動する・・・また止まる。


「この照明位置、夜危なくないですか?」


「え?」


「足元暗くなりますよね。」


「言われてみれば・・・。」


更に歩く。


「飲食エリア、風向き考えた方がいいかもしれません。」


「どうしてです?」


「ステージ方向へ匂いが流れそうなので。」


「なるほど・・・。」


次々に指摘が飛ぶ。その的確さに、責任者がたじたじになっている。


(すげぇな・・・。)


その様子を黙って見ていた湊は、驚いていた。