元プロバンドマンの部下は、私に気づかない~まさかの再会オフィスラブ~

15分後に再開された会議の冒頭


「そもそも、今回のフェスってそんなに音楽メインにこだわる必要あるんですか?」


ひとりの社員が言い出した。


「そう言えば、私が最近行ったフェスって、半分レジャーイベントみたいなものでしたよ。」


「そうだよな。フェス飯とか、写真とか、キャンプ感とかってよく言われるもんな。」


「だとしたら、音楽好き向けだけの企画を考えても弱い気がします。思い切って、普通のイベントで考え直した方がいいんじゃないですか?」


「ちょっと待って。今回の企画はあくまで音楽フェスなんだから。既にスケジュ-ル抑えてあるアーティストやバンドもいるし、今更、そんなちゃぶ台返しのようなことは言わないでよ。」


さすがに和那が窘めるように言い


「南澤くんの言う通りだ。いいか、我々が今回請け負ったのは音楽フェスの企画と運営なんだ。それを踏まえた議論でなければ、まるっきり時間の無駄だ。」


部長も釘を刺すが


「でも現実問題、音楽だけじゃ集客厳しくないですか?」


「だから複合型イベントに・・・。」


「それで中途半端になるのが一番ダメだろう。」


議論は噛み合わない、いよいよ迷走し始めた。


和那は小さく息を吐いた。
 

(違う。全部、違う。でも・・・今は私にも、完全な答えは言えない。)


これ以上、議論がずれていくのを辛うじて方向修正するのが、今の和那には精一杯だった。思わずため息をついた和那の視界の端に、湊が映った。次の瞬間


「朝比奈さん。」


和那は呼び掛けていた。


「はい。」


驚いたように、顔を上げて自分を見た湊に


「君だけなんだけど。」


「えっ?」


「昨日から一回も発言してないの。」


「それは・・・。」


「何か意見はないの?」


自分でも驚くくらいの厳しい口調で和那は言った。


「いや、自分は議事録の作成の為にこの場に出席してるだけなんで、特には・・・。」


「議事録作成の指示は確かにしたけど、でもそれだけしてればいいとは言わなかったよね。」


「・・・。」


「君も会議の出席者である以上、なにかしらの意見を言う責任がある。」


「・・・。」