元プロバンドマンの部下は、私に気づかない~まさかの再会オフィスラブ~

部長の様子からすると、あるいは拍手で迎えられるんじゃないか、そんな予感を胸に意気揚々と中に入ると、その瞬間


「申し訳ございません! 本当にご迷惑をお掛けいたしました!」


必死な謝罪の声が耳に入り、和那は思わず息を呑む。


見れば、その声の主は受話器を耳に、平身低頭しているし、その横では数人の社員が慌ただしく動いている。


「和那さん!」


ひとりの女子社員が、彼女の姿を認めて、駆け寄って来る。


「ただいま。何かあったの?」


「それが・・・彼が差し替え前の旧版データを、クライアント側に送ってしまって・・・。」


「えっ、またやらかしたの?」


そう言った和那の視線の先に「彼」がいた。少し離れた場所で、所在なさげに立っている。その姿を見て、思わずため息が出る。


「和那さん。」


部下の困ったような声で、和那は我に返った。


「で、状況は?」


自分でも驚くほど冷静な声が出た。

 
「先方にはお詫び申し上げて、今データを急いで修正中です。一刻でも早く訂正版を送らないと、明日の打ち合わせにも支障が出てしまいます。」


「そうだよね、わかった。とにかくその作業を急いでくれる?再送付の際には、私から先方に改めてお詫びするから。」


「わかりました。」


頷いて、部下は離れていく。