元プロバンドマンの部下は、私に気づかない~まさかの再会オフィスラブ~

翌日の会議は、開始直後から空気が重かった。昨日の打ち合わせで、捗々しい進展が見られなかったせいだ。


大型モニターには、修正されたフェス会場レイアウト、企業ブース配置案、導線図。そしてSNS施策一覧・・・次々と映し出されて行く。
 

どれも別に間違っているとは思えない。でも、どこか決定的に噛み合っていなかった。


「とにかくこれじゃ、スポンサー露出が足りないでしょ?」


営業チームの社員が資料を叩く。


「これじゃ企業側のメリットが弱いですよ。」


「でも、それを前面に出しすぎたら来場者が引いちゃいますって。」


広報担当の女性社員が即座に返す。


「今の若い層は、広告っぽさをめちゃくちゃ嫌いますよ。」


「いや、でもスポンサー案件なんだから、そこは避けて通れないでしょう。」


「だから、見せ方の話をしましょうよ。」


「だいたい、その『見せ方』ってのが曖昧なんですよ。」

 
昨日も聞いたような議論が繰り返され、平行線を辿っているだけ。和那は頭を抱えたくなった。
 

(みんな、真剣なんだけど、肝心の『フェスとは何か』ということを、誰も掴めていない・・・。)


「飲食エリアを強化したほうが滞在時間伸びません?」


「でも、それじゃ回遊導線が死んじゃいますよね。」


「じゃあフォトスポットを増やして、映えを・・・。」


「そんなの他フェスもやってますって。問題は他とどうやって差別化するかなんですよ。」


「アーティストコラボとかは?」


「予算的に無理です。」


空気が悪い、誰も決定打を出せない。


(完全に煮詰まっちゃった・・・。)


そう感じ取った和那は


「一回、休憩入れよう。」


その場を収めるように言った。その言葉を受けて、メンバ-たちは思い思いに動き出したが、ひとり湊だけは相変わらず、ノートPCへ視線を落とし、カタ、カタとキーボードを叩いている。彼の周りの空気だけは、周囲の熱気とは完全に別世界を形成していた。


「休憩しないの?」


和那が声を掛けると


「切りがいいところまで。」


湊は彼女に視線も向けずに答えた。それ以上、会話が続く余地もなく、和那も部屋を出た。