元プロバンドマンの部下は、私に気づかない~まさかの再会オフィスラブ~

だから議論は自然と白熱し、会議室の空気はヒートアップしていた。でも、そんな中、和那は、どこか冷めた気持ちでその議論を聞いていた。


(違う。)


全部、微妙にズレている。数字、拡散、スポンサー価値。もちろん必要で大切なものだ。でも、そんなものだけで、フェスは、ライブは成り立たない。


和那は小さく息を吐くと


「一回整理しましょう。」


静かに口を開いた。


「『来場者目線』と『企業目線』がごっちゃになっちゃってる。」


その言葉に、場が一旦鎮まる。ここにいる多くの人間が、フェスの、ライブの現場を知らない。観客として体験した人は少なくないのかもしれないが、運営の経験者は少数だし、学生時代には出演者でもあった和那の発言はやはり、この場では重みがあった。


だが・・・和那はふと、視線を横へ向けた。


会議室の端で、ノートPCへ淡々と文字を打ち込んでいる湊の姿が目に入る。議事録作成、これが今日のミーティングで彼に与えられた役目だった。


発言内容、タスク整理・・・必要事項を正確にまとめていく。ただ、それだけ。周囲の熱気とは、完全に別世界だった。彼は今、この場を静かに記録する観察者に過ぎなかった。でも・・・和那だけは知っている。


この人は、本当は黙って議事録だけ取っているべき人じゃない。フェスの空気を、ライブハウスの熱を、ステージ裏の匂いを、少なくてもこの場では、誰より知っているはずの人なのだ。


なのに、湊は、一歩も中へ立ち入ろうとはしない・・・。