元プロバンドマンの部下は、私に気づかない~まさかの再会オフィスラブ~

だけど・・・最後の曲は進んで行く。間奏に入り、湊がマイクから離れる。彼のかき鳴らすベース音、その低音だけが空間を支配する。


(湊、やっぱりあなたはここで終わる人じゃないよ・・・。)


そしてとうとう、演奏が終わった。


一瞬の静寂、次の瞬間、爆発音みたいな歓声が上がる。拍手が、そして叫び声が観客たちから『Riot Beat』のメンバ-たちに送られる。


彼らは、その声援に大きく手を振って応えると、次にステ-ジの中央に集まり、ガッシリとお互いをハグし合った。もちろん、その中心にいたのは湊だった。


やがて、仲間たちから離れ、マイクの前に立った湊は


「みんな、今日は本当にありがとう。じゃ、さよなら!」


やり切ったと言わんばかりの満面の笑みで、そう言い残すと、観客席に背を向けた。その彼の姿を見た瞬間


(湊!)


和那は、立ち上がっていた。気づけば、人をかき分けていた。考えるより先に、足が動く。湊に一刻も早く会いたい、その一心だった。


湊がステ-ジから降りて来る。その姿が目に入った瞬間


「湊!」


和那は夢中で彼に飛びついていた。


「湊~、あんた最高だよ!」


「えっ・・・ナミちゃん?」


いきなり女子に抱き着かれて、目を白黒させていた湊は、それがそんなに親しい間柄とは言えない和那であることに戸惑いの表情を浮かべるが


「終わっちゃダメだよ!」


和那は興奮のまま、彼の耳元に叫ぶ。


「えっ?」


湊が目を見開いた。


「音楽。」


「ナミ。」


「湊なら、もっと先に行ける、ううん、行くべきだよ!」


和那は夢中で言った。そんな彼女に


「ありがとう。」


湊は優しい笑顔を向けた。


「でも俺、やり切ったから。」


そう言うと、そっと和那の身体を離した。


「湊・・・。」


湊の言葉に思わず、その顔を見つめた和那だったが、そんな彼女を押しのけるように、彼の周りを男女問わず、次々と若者たちが押し寄せて来る。