元プロバンドマンの部下は、私に気づかない~まさかの再会オフィスラブ~

それから、時は流れ・・・和那たちは大学4年の冬を迎えていた。


この日、和那の大学に、いくつかの大学の軽音部が集結し、校内のライブハウスは、いつもより少しだけ特別の空気に包まれていた。


卒業ライブ、4年生にとっては、一区切りになるイベント。この日を最後に解散するバンド、引退する演奏者も多い。『Lumiere』もその1つ、和那もその一人だった。


「ナミ、準備大丈夫?」


「うん、大丈夫。」


リ-ダ-である悠真の声に、和那はキーボ-ドを叩いて応える。


控室は相変わらず騒がしい。笑い声、機材の音、誰かの歌声。


でも、その空気の中で、和那はずっと別のことを考えていた。


今日で終わる、自分の音楽は。本気だったし、楽しかった。でも・・・社会に出たら、もう続けられない。それは、当たり前のことだと思っていた。ごく自然なことだと思っていた。


「『Lumiere』、そろそろ準備、お願いします。」


運営から声が掛かる。頷いて、立ち上がった5人のメンバ-。


「いよいよ、最後だ。」


「うん。」


「柚希、(たける)憲治(けんじ)、そしてナミ。お前たちと一緒にやれて、俺は本当に幸せ者だ。」


「ううん。私たちこそ、悠真のお陰で、みんなと仲間になれて、4年間、一緒に走り抜けて来られた。感謝してるよ。」


「みんな、大切で大好きな仲間たちだよ。ありがとうね・・・。」


悠真の言葉に、和那と柚希が応えて、ふたりの目には涙が光っている。


「泣くのはまだ早い。最後に最高のステ-ジにしようぜ。」


「おぅ!」


こうして、5人はステ-ジに飛び出して行く。大きな拍手に迎えられて、所定の位置についた和那たち。


何度立っても、始まる前は少しだけ緊張する。でも、悠真の合図で、音を鳴らした瞬間、それは消えた。5人の呼吸がピッタリ揃う。やっぱり4年という月日は、伊達ではなかった。楽しい、やっぱり好きだ。そう思う。だけど・・・だからこそ、終わらせなければならないのだ。


演奏が終わる。拍手、歓声。深く一礼して、ステージを降りる。


(やり切った・・・。)


充実感が、和那の全身を包んでいた。でも・・・ライブはまだ終わってはいなかった。