元プロバンドマンの部下は、私に気づかない~まさかの再会オフィスラブ~

ある時、一緒になったライブで、出番の前の音合わせに勤しんでいた『Lumiere』の所へノコノコと現れた湊が、少し彼らの演奏を聴いていたが


「前から思ってたんだけど。」


と口を開いた。


「ナミのキ-ボ-ドの音は優しいなぁ。」


「えっ?」


「いかにも女性が奏でる音って感じで。俺はバンドを組む時、女子を入れるっていう発想がなかったんだけど、キ-ボ-ドは女子でもよかったかもしれねぇなぁ。」


「そう、かな・・・。」


突然、褒められて、照れくさそうな表情を浮かべた和那を見て


「なんだ、湊。お前、まさかナミを引き抜きに来たんじゃねぇだろうな?お前たちのバンド、どこかのインディ-ズレーベルから話が来てるらしいじゃないか。」


「えっ、そうなの?」


悠真がツッコミを入れると、柚希がその言葉に反応する。彼らも3年生になり、就活が他人事でなくなる時期を迎えていた。


「そんな噂が流れてるらしいが、そんなわけねぇだろう。だいたい俺は、親から堅実な人生を歩めと、固く言い聞かされて育ってるんだから、そんな夢見るほど、おめでたくねぇし、そろそろ公務員試験を受ける準備を始めようかと思ってるよ。」


冗談とも本気ともつかない口調で湊が返すと


「公務員なんて今から勉強始めて、間に合うわけねぇだろう。ただ、堅実な人生を歩むのは、賛成だな。お前のバンドは確かにベースは抜群にいいけど、ボーカルがひでぇからな。売れねぇよ。」


悠真がまぜっかえすと


「なにぃ。」


湊が気色ばむふりをして、その場は笑いに包まれたが


(そうなんだ、湊はプロを目指さないんだ・・・。)


和那は内心、意外に思っていた。