元プロバンドマンの部下は、私に気づかない~まさかの再会オフィスラブ~

会議が終わり、オフィスに戻った和那が、チ-ムメンバ-を集め、会社からの指示を伝えると


「面白そうですね。」


「そりゃ音楽案件となれば、会社も南澤さんを選びますよね。」


部下たちも声を弾ませる。就活時に


「あなたは学生時代、何に力を注ぎましたか?」


いわゆる「ガクチカ」質問に対して


「バンド活動です。」


と胸を張って答えていた和那は、就職後も、音楽好きでかつては自分も演奏していたということを周囲に隠したりはしていなかったから、彼女は以前も同じような音楽案件を担当したことがあった。


「そう言ってもらえるのは嬉しいけど、でも今回の案件は前回とは規模が違うし、ウチのチームもその時とはメンバーが変わってるからね。大変になると思うけど、みんなよろしくね。」


「はい!」


早くも顔を輝かせているメンバ-の中で、ひとり浮かない顔をしている朝比奈湊の姿は、当然和那の視界に入っていた。だが、この後のスケジュールを確認し、スタッフたちが各自にデスクに戻って行く中、湊の背中からは、何の感情も感じられなかった。


「朝比奈さん、ちょっと。」


和那が湊に声を掛けたのは、結局その日の就業時間が終了してからだった。


「はい。」


帰り支度をしていた湊が、その手を止めて、和那の方を見た。彼女に「話し辛い」「聞き辛い」と言ってしまった翌日、湊はさすがに失礼なことを申し上げて、すみませんでしたと頭を下げた。和那は笑って、気にしてないと言ってくれたが、それ以来、やはり距離を置かれてしまったなという自覚はあった。