元プロバンドマンの部下は、私に気づかない~まさかの再会オフィスラブ~

プレゼンルームの照明が落ち、大型モニターに最後のスライドが映し出された。


『――新しい音を、街の日常へ。』


静寂が落ちる。


南澤和那(みなみさわかずな)は、リモコンを静かに机へ置いた。


「以上になります、ご清聴ありがとうございました。」


一礼する。


誰もすぐには口を開かなかった。


資料へ視線を落とす者、腕を組んだまま考え込む者、担当者同士が小さく目配せを交わす。


横の部下が、不安そうに視線を送って来るが、和那は表情を変えない。相手の沈黙に、かえって手応えを感じさせられていたからだ。


(……取った。)


胸の奥で、小さく拳を握った。


やがて責任者がゆっくり口を開く。


「……素晴らしいですね。」


その一言を皮切りに、空気が動き出した。


「後半の導線設計は特に印象的でした。」
「企業ブースとの連携も具体的で分かりやすい。」
「実施後の展開まで想像できました。」


口々に感想が漏れ、また質問が飛んでくるが、和那は一つひとつ落ち着いて答える。手元の資料など、全く必要がなかった。


会議室の空気は、確実に彼女のものになっていった。


最後に責任者が、和那を見た。


「では、この方向で進めましょう。」


「ありがとうございます。ご期待に添えるよう尽力いたします。」


和那は完璧な笑顔で、静かに頭を下げた。