元プロバンドマンの部下は、私に気づかない~まさかの再会オフィスラブ~

「どうしたの?」


仕方なく、水を向けてみると その一言で、湊はようやく口を開く。


「あの・・・」


「?」


「なんか、南澤さんと全然話せなくなっちゃいました。」


真面目な顔でそんなことを言い出すから、和那は思わず吹き出すと


「確かに。」


と頷いて見せる。


「なんか・・・。」


ここでまた、言いにくそうに言葉を切った湊だったが


「ちょっと、寂しいです。」


なんとかそのセリフを吐き出すと、照れくさそうに笑った。


その言葉に、和那の胸が跳ねた。同じだった。自分も、同じことを思っていた。でも、それを口にするわけにはいかない。少なくても、今、ここでは・・・。


「そう?」


そう言って、澄ました顔を作る。


「はい。」


湊の方は、真剣そのものだ。そんな彼の様子を見て、和那は


(湊・・・。)


心の中で名前を呼んで、彼を見る。すると


「南澤さん。」


また呼ばれる。


「うん?」


「今度・・・。」


また躊躇っている。でも・・・


「また話しませんか?その・・・仕事抜きで。」


そう言って、不安そうに自分を見て来る。


和那は一瞬だけ息を止めた。『仕事抜きで』・・・その言葉が、何度も心の中でリフレインされる。


「そう、だね・・・。」


一瞬躊躇った。でもその返事を止める選択肢は、結局和那の中には、もうなかった。