元プロバンドマンの部下は、私に気づかない~まさかの再会オフィスラブ~

「なんでしょう?」


「これ。」


デスクの上のペーパ-の一部分を指し示すと、湊の顔色が変わる。


「分からないところ、あったんでしょ?」


「・・・ありました。」


「なんで聞かなかったの?」


「自分で確認できると思って。」


「結果、できてなかったよね。」


「・・・はい。」


会話が、そこで止まる。広がらない、深まらない、まるで、どこかに見えない壁があるみたいに。


「次からは、お願いだから分からない時点で聞いて。あと『できると思った』じゃなくて、『確認する』だからね。」


本当にわかってくれているのか・・・手応えがないから、ついクドクド言ってしまう。


「・・・。」

 
「分からないなら分からないって言っていいんだよ。黙ってられるのが一番困るの。」


面談室に呼んで話すべきだったかもしれない、後で和那は後悔した。でもこの時はさすがにもう止まらなくなっていた。


「すみません。」


やっと出てきたのは、それだ。その一言で、和那の苛立ちが更に増す。


「謝罪はいらないって言ってるでしょ!」


「南澤さん。」


遠慮がちに湊が声を上げた。最初の頃は、彼から「南澤さん」と呼ばれるだけでイラッとしてしまったが、さすがに今はそれはない。


「何?」


「いえ、何でもないです・・・。」


「何でもなくないでしょ?」


「・・・。」


「今、何か言いかけたよね。」


「・・・。」


「ちゃんと言ってよ!」

 
和那のいら立ちは頂点に達しようとしていた。