「パパー、このお花なにー?」
花菜が小学校から帰ってくると、家の裏の畑で、小さな鉢に植わった黄色い花を見つけた。
花農家を営む父親の瑞希がやって来た。
「そりゃフクジュソウだ。今朝出荷してきたんだが、それはまだ小さいから、もう少し様子を見てたんだ。でも、それは卸すのは難しいかな」
「もらっていい?」
「ああ、いいぞ。フクジュソウの花言葉は『幸せを招く』『永遠の幸福』だな。花菜が育ててもいいし、幸せになってほしい人に渡してもいい」
花菜は顔を上げて瑞希を見た。
「パパなら、だれにあげる?」
「花菜のママ」
「だよね。ありがとう、パパ。次は、いつ藤乃くんのとこに行く?」
「あと一時間くらいしたら行く」
「私も行く。宿題終わらせてくる」
花菜はフクジュソウの鉢を抱えて家に走った。
宿題を終えた花菜はリビングで仕事をしていた母親に声をかけた。
「ママー、パパと藤乃くんのとこ行ってくる」
「はいはい、パパのお仕事の邪魔しないのよ。これ、藤也くんに持っていってね」
母親から従兄に渡すミカンを一袋受け取って、花菜はまた家を出た。
花菜は、瑞希が配達用の花を車に積むのを手伝って、助手席に乗り込んだ。
「藤乃のとこは最後な」
「うん。……このミカン、一個食べていいかな」
「藤也にだろ? いいんじゃねえかな」
花菜がミカンを食べている間に、瑞希は配達を済ませて、最後の花屋へとやって来た。
花菜は瑞希といっしょに車を降りて、台車に花を乗せるのを手伝った。ミカンの袋とフクジュソウの鉢を持って、花菜は花屋の裏口を叩いた。
「こんにちは、おとどけにまいりました」
「花菜ちゃん、いらっしゃい。瑞希もありがと」
顔を出したのは叔父の藤乃で、瑞希といっしょに花を運んだ。
花菜が花屋に入ると、従兄の藤也がカウンターで宿題をしていた。
「藤也、ミカンあげる」
「サンキュ。花菜もミカン食う?」
「さっき食べたからいらない。あのね、このお花はフクジュソウ」
「フクジュソウ?」
藤也は宿題を横に置いて、ミカンを剥いた。
「うん。幸せになってほしい人にあげるってパパが言ってた」
「花菜は僕に幸せになってほしいの?」
「ほしいけど、藤也にはあげない。私は藤也のこと幸せにできないから、自分でがんばって」
「なんだよそれ」
藤也は笑いながらミカンを食べて、最後の一房を花菜の口に入れた。
花菜はミカンを飲み込んでから、フクジュソウを抱えて藤乃の元へと向かった。
「藤乃くん、フクジュソウあげる。幸せになってね」
「うん、ありがとう。花菜ちゃん」
藤乃がフクジュソウを受け取って、やさしく目を細めたのを見て、花菜は瑞希のところに戻った。
「パパ、帰ろう」
「もういいのか」
「いい。帰る。藤也、藤乃くん、またね」
「……僕も行く。瑞希、これもフクジュソウ?」
藤也が床に並んだ鉢を指差した。
「一個ちょうだい」
「おう。藤也の親父につけとくから、後で金払えよ」
「わかった」
花菜が花屋から出ると、藤也が走ってきて追いついた。
「花菜」
「なあに」
「これ、花菜にあげる」
差し出された鉢に咲くフクジュソウの花は、花菜が藤乃に渡したものよりずっと大きかった。
「俺も父さんも花菜のことを幸せにはしないけど、花菜だって幸せになれるんだ」
「なれるかな?」
「なれる。もっと花菜が、一緒に幸せになれると思った人に、このフクジュソウを渡してくれ」
「……わかった。ありがと」
花菜はフクジュソウの鉢を大事に抱えて、追いついてきた瑞希と一緒に車に戻った。
「藤也はキザだな」
エンジンをかけながら笑う瑞希に、花菜も笑った。
「パパにそっくりだよ。……藤乃くんにも」
「そらそうだ。ま、花菜も十分俺に似てると思うけどな」
「パパ、このお花はふやせる?」
「ちゃんと育てればな」
「そだてる」
「じゃあ、帰ったら畑の空いてるところ貸してやるから植え替えよう」
「うん」
黄色い花が、花菜の膝の上で揺れた。
十年後、高校生になった花菜は、所属する園芸部の倉庫に走った。
「藤也! 中庭の空いてるとこにフクジュソウ植えていい!?」
「部長と呼べって言ってるだろ。いいよ……フクジュソウ、あげたい相手見つかった?」
花菜は藤也にニカッと笑ってみせた。
「ううん。一緒に育てたい人がいるの」
「そらよかった。顧問に言って、発注かけとく。フクジュソウなら瑞希さんのとこかな」
「うん、それで。……ありがとう、藤也」
「勝手に幸せになってくれ」
「なる!」
従兄を背に、花菜はフクジュソウを一緒に育てたい人のところへ向かって走り出した。
花菜が小学校から帰ってくると、家の裏の畑で、小さな鉢に植わった黄色い花を見つけた。
花農家を営む父親の瑞希がやって来た。
「そりゃフクジュソウだ。今朝出荷してきたんだが、それはまだ小さいから、もう少し様子を見てたんだ。でも、それは卸すのは難しいかな」
「もらっていい?」
「ああ、いいぞ。フクジュソウの花言葉は『幸せを招く』『永遠の幸福』だな。花菜が育ててもいいし、幸せになってほしい人に渡してもいい」
花菜は顔を上げて瑞希を見た。
「パパなら、だれにあげる?」
「花菜のママ」
「だよね。ありがとう、パパ。次は、いつ藤乃くんのとこに行く?」
「あと一時間くらいしたら行く」
「私も行く。宿題終わらせてくる」
花菜はフクジュソウの鉢を抱えて家に走った。
宿題を終えた花菜はリビングで仕事をしていた母親に声をかけた。
「ママー、パパと藤乃くんのとこ行ってくる」
「はいはい、パパのお仕事の邪魔しないのよ。これ、藤也くんに持っていってね」
母親から従兄に渡すミカンを一袋受け取って、花菜はまた家を出た。
花菜は、瑞希が配達用の花を車に積むのを手伝って、助手席に乗り込んだ。
「藤乃のとこは最後な」
「うん。……このミカン、一個食べていいかな」
「藤也にだろ? いいんじゃねえかな」
花菜がミカンを食べている間に、瑞希は配達を済ませて、最後の花屋へとやって来た。
花菜は瑞希といっしょに車を降りて、台車に花を乗せるのを手伝った。ミカンの袋とフクジュソウの鉢を持って、花菜は花屋の裏口を叩いた。
「こんにちは、おとどけにまいりました」
「花菜ちゃん、いらっしゃい。瑞希もありがと」
顔を出したのは叔父の藤乃で、瑞希といっしょに花を運んだ。
花菜が花屋に入ると、従兄の藤也がカウンターで宿題をしていた。
「藤也、ミカンあげる」
「サンキュ。花菜もミカン食う?」
「さっき食べたからいらない。あのね、このお花はフクジュソウ」
「フクジュソウ?」
藤也は宿題を横に置いて、ミカンを剥いた。
「うん。幸せになってほしい人にあげるってパパが言ってた」
「花菜は僕に幸せになってほしいの?」
「ほしいけど、藤也にはあげない。私は藤也のこと幸せにできないから、自分でがんばって」
「なんだよそれ」
藤也は笑いながらミカンを食べて、最後の一房を花菜の口に入れた。
花菜はミカンを飲み込んでから、フクジュソウを抱えて藤乃の元へと向かった。
「藤乃くん、フクジュソウあげる。幸せになってね」
「うん、ありがとう。花菜ちゃん」
藤乃がフクジュソウを受け取って、やさしく目を細めたのを見て、花菜は瑞希のところに戻った。
「パパ、帰ろう」
「もういいのか」
「いい。帰る。藤也、藤乃くん、またね」
「……僕も行く。瑞希、これもフクジュソウ?」
藤也が床に並んだ鉢を指差した。
「一個ちょうだい」
「おう。藤也の親父につけとくから、後で金払えよ」
「わかった」
花菜が花屋から出ると、藤也が走ってきて追いついた。
「花菜」
「なあに」
「これ、花菜にあげる」
差し出された鉢に咲くフクジュソウの花は、花菜が藤乃に渡したものよりずっと大きかった。
「俺も父さんも花菜のことを幸せにはしないけど、花菜だって幸せになれるんだ」
「なれるかな?」
「なれる。もっと花菜が、一緒に幸せになれると思った人に、このフクジュソウを渡してくれ」
「……わかった。ありがと」
花菜はフクジュソウの鉢を大事に抱えて、追いついてきた瑞希と一緒に車に戻った。
「藤也はキザだな」
エンジンをかけながら笑う瑞希に、花菜も笑った。
「パパにそっくりだよ。……藤乃くんにも」
「そらそうだ。ま、花菜も十分俺に似てると思うけどな」
「パパ、このお花はふやせる?」
「ちゃんと育てればな」
「そだてる」
「じゃあ、帰ったら畑の空いてるところ貸してやるから植え替えよう」
「うん」
黄色い花が、花菜の膝の上で揺れた。
十年後、高校生になった花菜は、所属する園芸部の倉庫に走った。
「藤也! 中庭の空いてるとこにフクジュソウ植えていい!?」
「部長と呼べって言ってるだろ。いいよ……フクジュソウ、あげたい相手見つかった?」
花菜は藤也にニカッと笑ってみせた。
「ううん。一緒に育てたい人がいるの」
「そらよかった。顧問に言って、発注かけとく。フクジュソウなら瑞希さんのとこかな」
「うん、それで。……ありがとう、藤也」
「勝手に幸せになってくれ」
「なる!」
従兄を背に、花菜はフクジュソウを一緒に育てたい人のところへ向かって走り出した。



