ロマンスに、キス




これ以上、情けない自分を見せたくなかった。

佐野に、素直になるのが怖かった。



「待てって」



肩をつかまれ、強引に振り向かされる。

びしょ濡れになった佐野の顔。怒っているのは当たり前だ。

その視線を受けた瞬間、身構える。


いやなことを言われる。

あたしの心から一生消えないような、聞きたくないことを。



「他の男と一緒にすんなよ」


「…は、」


「お前だって、俺のこと知らねーだろ」


「そ、んなの…佐野が話してくれないからじゃん」


「お前だって、そうだろーが」



そうだよ。全部わかってる。

それでも、そんなところも、しょうがねーなって、許してほしかった。


あたしが、佐野ならいいやって、思えるくらいに甘やかしてほしかった。

怒られるのも、叱られるのもいい。

でも、ちょっとだけでいいから、あたしだけを見て、あたしのことを大切に思ってほしかったの。



「もう、会わない」



ほんとは、そんなこと言いたくない。

思ってもないことを、また、口にしてしまった。

佐野の反応を試して、伺って、心の奥で確かめて。



「そーかよ。じゃーな」



クシャっと前髪を触りながら、遠ざかっていく佐野の背中を見て、



心底、後悔した。