ロマンスに、キス




「……逆に聞くけど」



声が、思ったより低く出た。



「なんで、あたしなの?」



どうせ答えは決まってる。

一緒にいて楽だから。扱いやすいから。都合がいいから。友達がいないから、仕方なくだ。


そういう理由しか、聞いたことがない。
期待なんて、してない。
してない、はずなのに。



佐野は一瞬、宙を見る。
ほんの一秒。
でも、その一秒が、やけに長く感じた。


逃げるのかと思った。
適当にはぐらかすのかと思った。



でも――


逃げ場をなくすみたいに、あたしの目を真っ直ぐ見て。



「一千華といる時が、一番楽しい」



……なに、それ。


息の仕方を、完全に忘れた。肺が止まったみたいで、空気が入ってこない。鼓動だけが、やけにうるさい。



「楽しい以外の理由、なくね?」



そんなの。
そんな当たり前みたいな顔で、言わないでよ。


あたしに近づいてきた男の人は、みんな同じだった。
可愛いから。手に入れたいから。自慢したいから。
下心が、透けて見える理由ばっかり。



だから、あたしも同じだった。

どうしたら好かれるか。どうしたら嫌われないか。
どうしたら、価値があるって思ってもらえるか。


それしか、考えたことなかった。


誰かと一緒にいて、
ただ「楽しい」なんて思ったこと――


一度も、なかったのに。