ロマンスに、キス




笑顔で「ありがとう」と返すと、教科書を受け取った相手は、顔を真っ赤にして目をそらす。

その小さな反応に、胸の奥でほのかな優越感がくすぐられる。
まあ、当然と言えば当然。これくらいのことで照れるなんて、可愛いんだから。


そのとき、耳に入ってきた声。



「佐野くん、今日カラオケ行くんだけど、一緒に行かない?」



思わず視線が自然に、佐野の方に向く。

教科書を受け取ってくれた男にもう一度笑顔をひとつくれて、廊下を歩きながら軽くチラリと佐野を見た。



……気づいてない。普通、気づくでしょ。あたしが現れたら。
まあ、佐野だし。どうでもいいと言えばどうでもいい。


でも、やたらと佐野の腕にベタベタ触る女がいる。
見ていて、なんとなく気に食わない。

眉間に皺を寄せ、だるそうに身を任せている佐野。
拒もうともしない。



……佐野、そういうの許せるんだ。

まあ、あたしに二回も無断でキスして、膝枕までしてくるくらいだし。


その気軽さ、無神経さが、なんともいえず腹立たしい。
でも同時に、無視できない存在感でもある。