ロマンスに、キス




だけど、イライラが限界だった。自分のお腹の音が鳴る前に終わらせなきゃ。



「――あたしのこと、好きなんですか?」



わざと、少しだけ首を傾ける。上目遣いで、瞬きの速度もゆっくりに。


天使の柏谷一千華を演じる時の、定番のやつ。
本当は、こんな場所でやりたくない。
誰にも見られたくない。


とくに――佐野には。 二度も見られるなんて、恥でしかない。


だけど、逃げられない以上、“彼らが求めてるイメージ”で終わらせるのが一番早い。


男の子は、目を丸くして固まった。
まんまと、いつも通り。ほらね。これで、すぐ終わる。



「好きです。付き合ってください」



ようやく吐き出したみたいなその一言が、屋上の空気にやけに大きく響いた。


あたしは胸の奥の“天使スイッチ”を押して、できるだけ柔らかい声で答える。



「今、付き合うとか考えてなくてっ……ごめんなさい」



ちょっとだけ目を伏せて、少し困ったように笑う。この角度で断ると、大体みんな傷つかないように引いてくれる。


実際その通りで、彼は俯いたままぽつりと、



「……そうですよね」



それだけ言って、あっけなく足早に立ち去っていった。


なんだったんだろ。あれだけ長く喋ってたのに。