ロマンスに、キス




クラスメイトたちは “待ってました” と言わんばかりに顔を寄せてくる。



「佐野くんね、イケメンだしモテるけど彼女つくらないらしい」

「背高くて、ちょっと怖いけど、ファン多いよね」

「いつもヘッドフォンしてる人だよね?」



――ヘッドフォン。やっぱり、間違いなくあいつ。あんな男の情報なんて、聞いたところで価値ゼロ。



「教えてくれて、ありがとっ」



にこっと、スマイルをひとつ。口角だけをやわく上げて、目は少しだけ細める。

クラスメイトたちはそれだけで満足したように顔をほころばせた。
……便利だ。笑うだけで勝手に機嫌が良くなるなんて。この程度なら、いくらでも与えてあげられる。

数人が「やっぱ柏谷さん可愛いよね〜」なんて言いながら席に戻っていく。
その視線を背中に感じながら、あたしは筆箱を開く。ほんと、単純。笑顔ひとつで満足するなんて。


佐野のことなんて、どうでもいい。噂はそのうち消える。放っておけば終わる。


そう思っていた。



……昼休みまでは。