詩音と海と温かいもの

 次の日は朝から引っ越し。

 昼前には運び終えたから、適当に飯を済ませた。

 昼過ぎに買い替えた家具を運んでもらって、夕方前に詩音ちゃんの荷物が届いた。

 元が寮だし、使わないものは俺の部屋にあったから、詩音ちゃんの引っ越しはあっという間に終わった。

 とはいえ、二人分の荷物を運ぶと、部屋の中はダンボール箱だらけだ。

 詩音ちゃんと並んで、顔を見合わせた。


「うーん、どこから手をつけようか」

「とりあえず風呂と服かな。詩音ちゃん、風呂任せていい? 俺は玄関の箱を開けていくから、終わったら寝室の服を一緒に片付けて、晩飯にしよう」

「はーい。……晩ごはんは買ってくる?」

「外で食ってきてもいいよ」

「そっかあ。匠海さんの手作りが食べたかったから……ごめんなさい、わがまま言った」


 嬉しかったから、詩音ちゃんを抱き寄せて、彼女の額に唇を寄せた。


「今日は台所が片付かないし、食材もねえから明日からな」

「う、うん」


 照れた顔の詩音ちゃんにもう一度顔を寄せて、ダンボール箱の片付けに向かった。




 二時間くらいかけて、洗面所と玄関、寝室のダンボール箱を開けていった。

 詩音ちゃんと晩飯を買って済ませた。


「ねえねえ匠海さん」

「ん?」


 食べたあとの片付けをしていたら、詩音ちゃんがまた照れた顔で俺の服を引っ張った。


「お風呂、一緒に入ろうよ」

「は!? は、入りません!」

「なんで!?」

「こっちのセリフだけど!? いろいろすっ飛ばし過ぎだろ……」

「ぶー」

「あの、明日も片付けあるし」


 詩音ちゃんがジトッと俺を睨んでいて、かわいい。

 かわいいけど、ちょっと待って……。


「えっと、風呂入ったら、したくなっちゃうし」

「したく……? えっちなことを?」

「言い方!! いや、そうなんだけどさあ」

「してもいいんじゃないの?」

「そうなんだけどさあ……。あの、するなら、避妊をですね」


 詩音ちゃんは「ふうん?」と、分かったような分からないような顔をした。

 もちろんゴムは買ってある。

 使い方も大丈夫。……たぶん。


「え、えっと……心の準備をさせてください」

「どのくらい?」


 なんでこの子はこんなに畳み掛けてくるんだ……。


「……あのですね、俺も四年我慢してるんだよ。だから、たぶん落ち着いて取り組まないと、めちゃくちゃしちゃうと思うんだ」


 詩音ちゃんは唇を突き出した。

 かわいいけど、何をそんなに焦っているのやら。


「詩音ちゃん。好きだよ」

「私も匠海さんのこと好き。だから、ずっと寂しかったから……」


 詩音ちゃんの目が泳いだ。

 たぶん、俺が思うよりずっと、この子は我慢していたんだろう。

 どうにも、必要なのは優しくすることじゃなかったみたいだ。


「わかった」


 わざと明るく笑って、詩音ちゃんの耳元に顔を寄せた。


「覚悟、しといてくれよ」

「……とっくにしてるよ、そんなの」


 顔を真っ赤にした詩音ちゃんを、先に風呂に向かわせた。