詩音と海と温かいもの

 今日は詩音ちゃんの高校の卒業式。

 俺、川瀬匠海は両親と一緒に、保護者席でその様子を見守っていた。


「匠海さーん、川瀬さーん!」


 式の後、詩音ちゃんが大きく手を振りながら走ってきた。


「来てくれてありがとうございます」

「卒業おめでとう、詩音ちゃん」


 詩音ちゃんが頭を下げると、母親が涙ぐんだ。親父も目に涙を浮かべていて、俺までつられて泣きそうになった。


「美海と夜も来たがってたよ」

「ふふ、私も二人の卒業式行きたかったけどね」

「詩音ちゃん、寮を出るのは明日だっけ?」

「はい。明日の午後に引っ越し予定です」

「匠海が先に午前中に引っ越すのよね」


 笑顔で頷く詩音ちゃんに、母さんがしみじみと微笑んだ。


「ついに詩音ちゃんが本当の娘になるのねえ」

「一緒に住むだけだから。籍はまだ入れねえから!」

「プロポーズもされてないもんね」

「お前、甲斐性がないぞ」

「う、うるせえな……」


 今日はこの後、四人で飯に行く予定だ。

 四人で歩き出そうとしたら、見覚えのある顔が俺らを呼び止めた。


「ご無沙汰しております、川瀬さん。詩音も」

「……お父様、お母様」


 詩音ちゃんのご両親だった。

 何度か会ったことのある父親は淡々と会釈をし、初めて会う母親はムスッとしたまま立っていた。


「詩音、卒業おめでとう。川瀬さん、何かとお手数をおかけしており、申し訳ありません」


 うちの両親と詩音ちゃんの父親が話し始めた。詩音ちゃんが顔をしかめていたので手をつないだ。


「……詩音は、あの何もない町に戻るのね」


 詩音ちゃんの母親が、低い声で言った。


「何もなくないよ」

「そ、」

「詩音は遥にそっくりだよ。親の言うことなど聞かずに、自分のしたいようにするところが」


 母親が何かを言う前に、父親が微笑んで止めた。

 詩音ちゃんと母親が目を丸くして父親を見た。

 その顔は、確かに母子でそっくりだった。


「では、わたしたちはこれで。川瀬匠海くん、娘をよろしく頼んだよ」

「は、はい! ……幸せにします」

「……そうか。安心したよ」


 矢崎さん夫婦は、また軽く会釈をして去って行った。

 俺らは顔を見合わせてから、並んで歩き出した。