詩音と海と温かいもの

 それから半年とちょっと。

 高校二年生が終わるころに、私と匠海さんは互いの将来について話し合った。

 その結果、匠海さんが仕事に慣れて落ち着くまで、そして私が進学を決めるまで、互いに会うのを自重することにした。

 落ち着いたら、それぞれが通いやすい位置に部屋を借りて同棲する約束だ。

 短くて半年、長ければ一年近く会えないけど、それでも仕方なかった。

 私たちは、自分の足で歩けるようにならないといけなかった。



 でも、それはそれとして、やっぱり寂しい。

 春休みの半ば、匠海さんの部屋で私は口をへの字にして、匠海さんを見上げていた。


「詩音ちゃん」

「うん」

「そんな顔してもダメです」

「うー」

「泣いてもダメ」

「ばか、匠海さんのばかばか!」


 匠海さんは困ったような笑顔で、私の頭を撫でてきた。

 私は春休みが終われば高校三年生になる。

 匠海さんは少し前に大学の卒業式が終わっていて、明後日から仕事が始まる。


「俺は頑張って仕事に慣れるから、詩音ちゃんも大学受験頑張って」

「頑張るけどさあ……でも、寂しいよう」

「俺も寂しいよ。詩音ちゃんの大学が決まったら、卒業後に住む部屋を決めよう? 秋には決まるんだろ?」

「……うん」


 そう、私は今在学している付属高校から、大学にエスカレーター式で進学予定だ。

 七月に模試があって、そこで一定以上の成績を取ることができれば九月半ばには進学が内定する。

 今のところの成績なら問題なく内定できると思う。

 匠海さんに勉強を教わっていたし、長期休みの度に夜とも勉強をしていたおかげだ。

 大学からは匠海さんと同棲することにした。

 親がお金は出してくれるし……実家に帰らせないためだから、遠慮なく出してもらうことにした。


「それはそれとして寂しいよう、ちゅうしてよお」

「しない」


 今ならしてくれるかと思ったけど、やっぱりダメだった。

 匠海さんは呆れたように笑って、私を抱きしめた。


「なんで」

「詩音ちゃんが高校生だから」

「……高校卒業したら、してくれる?」

「そうなったら遠慮なくするよ、俺は」

「楽しみにしてる……」

「おう、その言葉、覚えとけよ」

「匠海さん、好き。大好き。私のこと、忘れないでねえ」

「こっちのセリフだから。好きだよ。詩音ちゃんが好きだ。一生一緒にいられるように頑張ってくるから、詩音ちゃんも俺のこと忘れないでくれ……ほんと、お願いします……」

「もー、なんでそこで弱気になっちゃうのさ」

「仕方ねえだろ、詩音ちゃんかわいいんだから。きっと大学でかっこいい彼氏見つけてきちゃうんだ……」


 情けない声を出す匠海さんから体を離して、見上げた。


「怒るよ」

「ごめん」


 手を伸ばして、匠海さんのほっぺを揉む。

 しばらくやっているうちに、匠海さんが笑い出した。


「じゃあ、またね」

「うん。大学が決まったら連絡する」

「夏休み、実家に行くときにも教えてくれ」

「わかった」


 最後にもう一度、強く抱きしめ合った。

 手をつないで、匠海さんの部屋を出た。