詩音と海と温かいもの

 それがいつだったかは忘れたけど、私、矢崎詩音は匠海さんに打ち明けた。


 ――私が実家から疎まれている理由。それは、父方の祖母にそっくりだからだ。

 そもそも母は、兄が進学して家にいることが少なくなり、寂しさから私を産んだ。

 産んでみたら女で、大嫌いな姑そっくりな上、「息子に似ていてかわいい!」と姑に可愛がられて、母は私のことも大嫌いになった。

 その姑――父方の祖母は、私が幼稚舎に上がる頃に亡くなって、三文安で母に嫌われた私だけが残った。

 母が私を疎めば、兄と姉も近寄らなくなった。父も母の機嫌を損ねるのを恐れて、私に構わなくなった。

 その結果、家族から放置され、長期休暇は小崎町の母方祖母に押しつけられ、中学からは全寮制の学校に逃げ出した、というわけだ。


 ……そのしょうもない話を、匠海さんは顔をしかめながら、黙ったまま最後まで聞いてくれた。話し終えた後も何も言わず、私を抱きしめていた。


「匠海さん?」

「ん」

「ごめんね、こんな話」

「詩音ちゃんが謝ることじゃねえよ」

「そうかなあ」

「そうだよ」


 そのまま匠海さんは寝てしまったけど、朝まで私を抱きしめたまま離さなかった。

 親のことはすっかり諦めていたけど、それでも匠海さんがこうして悲しんでくれるのは、嬉しかった。