「月姫奈様、、ボスがお呼びです」

その声に、私は一瞬だけ背筋が伸びた。

私だけ、呼ばれてる。

不安が胸を少しだけ締めつける。

「ひとりで行くの?」
たくが眉を下げて聞いた。

「無理すんなよ?なんかあったら呼べ」
ひかはぶっきらぼうだけど優しい声。

2人の視線に背中を押されながら部屋へ向かった。

扉を開けると、
ふんわりした明かりの中に和くんが座っていた。

黒い和装が似合っているのに、
目は驚くほどやわらかい。

「月姫奈ちゃん、来てくれてありがとう」
声が優しくて、胸の強張りが少しほどけた。

「座りな。緊張する必要はないよ」

促されるまま座ると、
和くんは微笑みながらお茶を差し出してくれた。

え……優しい……。

「怖かっただろ?急に呼んでごめんな」

「い、いえ……ちょっとだけです」

和くんは穏やかに頷いた。

「今日はね、月姫奈ちゃんに
すこし大事な話をしたくて呼んだんだ」

声は落ち着いていて、
子どもを安心させるみたいな響き。

「まず、あの日。
お前が俺を助けてくれたこと、
本当に感謝してる」

目を伏せてしまいそうになるくらい真剣な声。

「未来が変わったんだよ。
お前のおかげで、俺は今ここにいる」

胸の奥がじんと熱くなった。

「だから俺は、お前を
“この家で一番守る存在”にした」

優しいけど、強い声。

私はそっと聞き返す。

「……私が、そんなに?」

「そうだよ」

和くんは微笑んだ。

「ここにいる奴らはみんな
月姫奈ちゃんを大切に思ってる。
その中心には――たくやとひかるがいる」

そう言う時の表情も優しい。

あの2人を家族みたいに想ってるんだ。

「だから、今日のランク付けもな……
月姫奈ちゃんが楽しそうで、俺は嬉しかったよ」

「怒ってないんですか……?」

和くんはくすっと笑った。

「怒るわけない。
お前が笑っていたら、それでいい」

優しすぎて泣きそうになる。

「でもね、ほんの少しだけ心配した」

和くんは私の目を優しく見つめる。

「男の中に入るのは、不安だろ?怖いだろ?
無理してないか、それだけが心配で」

涙腺がゆるむ。

なんでそんなに優しいの。

「無理してる時は、言っていい。
頼ってくれていい。
俺は“お前の味方”だから」

胸の奥にすとん、と落ちた。

この人、本当に優しい。

「それに……」

和くんは立ち上がって、
私の頭をそっと撫でた。

「お前が誰を選ぶかも、俺は気にしない。
幸せになれるなら、それでいい」

撫でる手があたたかい。

「だから怖いときは、ここに来ていいよ。
月姫奈ちゃんは、もう一人じゃない」

気づけば私は、涙がにじむ目で頷いていた。

扉を出るとすぐに――

「月姫奈!!」
「遅かったじゃん!!」

たくとひかが飛びつく勢いで駆け寄ってきた。

「どした!?泣いた!?」
たくが心配そうに覗き込む。

「ボスに何か言われたのか?」
ひかの声は焦ってる。

私は涙を拭いて、笑った。

「ちがうよ……優しかっただけ。安心しただけ」

2人はぽかんとしたあと、

「……なんだよ、それ」
「びびらせんなよ……」

そう言いながら、左右からぎゅっと抱きしめてきた。

あたたかかった。