校門前。

「じゃあ、帰ろっか。」
陽芽が笑い、4人は歩き出す。

「陽芽、ちょっといいか。」
遥太先輩が陽芽の腕を軽く引く。

「え、あ、はいっ!?」

「昨日の……電話の続き。
 まだ言ってねぇことあんだよ。」

(な、何……!?)

 陽芽は顔を赤くしながら
 遥太先輩の横へ。

 その瞬間――

「……咲良。」
遥輝が小さく呼ぶ。

「……な、なに……!?」

「お前と、話したい。」

 咲良の心臓が跳ねる。
 自然と遥輝の横に並んでしまう。

 気づけば――
 いつもとは逆の組み合わせ。

 4人は2組に分かれて歩き始めた。

ーーー

「で……続きってなんですか……?」

陽芽が遥太にきく。

「昨日の電話で俺、わかったことがあんだよ。」

「……なんですか?」
「陽芽と話してると安心するし、
どきどきするんだ。
俺恋とかした事ないし、よくわかんねぇけど陽芽は他の子と違うんだ。」

 ちょっとだけ近づく遥太先輩。
 陽芽は一歩後ろに下がる。

「陽芽は?
俺の事どう思ってる?」

「えっ……!」

「私は、、遥太先輩のこと、えっと、」

「ごめん。無理に言わすことじゃないよな。
忘れて。」

その遠くを見つめ悲しそうな顔が私の心に
深く突き刺さった。

ーーー

「昨日……俺、逃げたよな。」

「……うん。」

「でももう逃げない。
 お前のこと……ちゃんと見る。」

「え……?」

 咲良の歩く足が止まる。

 遥輝はまっすぐ咲良を見つめた。

「咲良が泣くと、胸が苦しくなる。
 笑うと……なんか、気持ち悪いくらい安心する。」

「な、なにそれ……っ」

「つまり……
 多分俺……
 咲良のこと好きなんだと思う。」

「~~~っ!」

 咲良は顔を覆ってうずくまる。


 遥輝はしゃがみこんで咲良に合わせる。

「泣くなよ。」

「泣いてない!!」

「泣くなら胸貸す。」

「泣かないってば!!」

 でも、目はうるうるしている。


 遥輝は確信した。

(あぁ、これ……完全に好きだわ俺。)

ーーー

 ふと気づき、
 2組が互いに距離を取りながらも
 ふと目を合わせた。

 陽芽は頬を赤くして、
 咲良は涙目で、
 遥太先輩と遥輝はどこか誇らしげ。

4人の恋は、
同じ帰り道で
少しずつ、確実に重なり始めた 。

ーーー
 4人で歩いていたはずなのに、
 空気がどこか落ち着かなくて。

 咲良と遥輝の雰囲気が
 “どう見てもいい感じ”なのが
 陽芽には丸わかりだった。


分岐路で「いい感じの2人」を見てしまった
陽芽と遥太は、なぜか同じ方向に走り出していた。

「はっ……はっ……な、なんで走って……」

「知らねぇよ……お前が先に走ったんだろ……!」

「遥太先輩が走るから私も……!」

 息を切らしながら、
 二人は夕暮れの公園で足を止めた。

 オレンジの光の中で、
 風に揺れる陽芽のポニーテールがきらきらしている。


 遥太は心臓を押さえたくなる衝動に襲われた。

 陽芽は下を向いて、
 靴の先をじっと見つめている。

「……遥太先輩、さっき……
 咲良と遥輝先輩、いい感じに見えませんでした?」

「……あぁ? なわけねーだろ。」

「えっ?」

「アイツらは……
 そう簡単にうまくいくかよ。」

 遥太の声は低くて、
 どこか切ない。

 そして──
 ふいに陽芽の手を掴んだ。

「っ……遥太先輩……?」

 遥太は苦しそうに、しかし覚悟した顔で言った。

「……陽芽。
 俺、お前が他の男と楽しそうにしてるの見ると……胸が苦しくなるんだよ。」

「……え……」

「他のやつに笑うなとか、
 お前の隣、誰にも譲りたくねぇとか……
 言いたくねぇことが全部出てくる。」

 陽芽の心臓が跳ねる。

 遥太は、顔を赤くしながら続けた。

「……好きだ。
 陽芽のこと。」

 夕焼けの中で、
 初めて見た遥太の弱さだった。

「……ずっと、好きだった。」

「遥太……先輩……」

「……返事は急がなくていい。
 でも……俺だけ、見ててほしい。」

 陽芽の胸が熱くなる。

「返事……します。」

「え、今……?」

 陽芽は手をぎゅっと握りしめ、
 正面から遥太を見つめた。

「私も……好きです。
 遥太先輩のこと。」

 遥太の目が見開かれた。

「……っ……!」

 次の瞬間、
 遥太は陽芽を強く抱きしめた。

「離さねぇからな。
 もう絶対……誰にも渡さねぇ。」

陽芽はその胸に顔をうずめて、
 泣きながら笑った。

 夕焼けの風が二人を包んだ。

ーーー

 咲良と遥輝は、
 陽芽と遥太が走り去った道を
 ぽかんと見ていた。

「……なんだあれ。」
 遥輝が苦笑する。

「……陽芽らしい。」
 咲良も少しだけ笑った。

 でも、すぐに沈黙が落ちる。

 遥輝はベンチに座り、
 咲良も隣に座る。

 その距離はほんの数センチ。

「……咲良。」

「なに。」

「俺も逃げねぇって……
 さっき言ったよな。」

「う、うん……」

 遥輝は横顔のまま言った。

「咲良のこと、好きだ。」

「――。」

「お前が他の誰見てても気にしてなかったのに……
昨日陽芽と話してたら、急に怖くなった。」

「……こわい?」

「お前が……
 誰か別のやつに泣かされたらとか。」

 咲良の胸がじんわり熱くなる。

「……それって……」

「咲良が好きだから、だよ。」

 咲良の目からぽろっと涙が落ちた。

「……好き……。
 わたしも……ずっと……」

 遥輝はそっと咲良の頭を撫でる。

「泣くなよ。」

「泣いてない……」

「泣いてる。」

「泣いてないって……!」

 涙を拭くふりをしながら、
 遥輝は咲良の小さな手をそっと握った。

「じゃあ……これから、よろしくな。」

 咲良は涙の中で
 小さく微笑んだ。

「……うん。」


同じ夕暮れの空の下、4人の胸に
大事な大事な恋が落ちた。