翌日。
授業終了のチャイムが鳴ると同時に、
咲良は陽芽の袖を引っ張った。

「ねぇ陽芽、今日サッカー部見学行く約束だよ?」

「う、うん……行くけど……」

 教室の外に出た瞬間。
 廊下の向こうから2つの人影が歩いてくる。

「お、来たな。」
遥輝が片手を上げる。

「……来てくれたんだ。」
遥太は少し視線を落とし、照れ隠しのように言う。

「え、で、
なんで遥太は照れてるんですか?」
咲良がにやりと笑った。

「照れてねぇし。」

「絶対照れてる。」

「お前は黙ってろ。」

 幼なじみの軽口に、
陽芽はまだ慣れていないくすぐったさを覚えた。


  風が強くて、陽芽のポニーテールが
ふわっと跳ねる。
そのたびに、遥太の視線が小さく
動いていた。

(……気のせい?
いや、気のせいでしょ……)

「陽芽ちゃん、ここ座っていいよ。」
遥輝がベンチを指し示す。

「ありがとうございます先輩。」

 座った瞬間、
 遥太の声が聞こえる。

「……危ねぇから、あんま前出るなよ。」

「え、あ……はい。」

「お前、言い方きつい。」
遥輝が笑った。

「別にそんなことないし。」

「ちょっと優しいじゃん?」

「黙れ。」

 ボールの音が響く。
 走るふたりの背中を見ながら、陽芽は思う。

(遥太先輩、ずっとこっち見てない……?
 いや……そんなわけ……)

 が――
 咲良は見ていた。

 遥太が、誰よりも陽芽を目で追っていることを。

 

練習が終わると、4人は軽く水を飲みながら並んだ。

「どうだった陽芽?」
咲良が聞く。

「すごかった……。上手だし、かっこよかった……です。」

「どっち?」
遥輝が身を乗り出してくる。

「えっ!?ど、どっちとか言えないです!!」

「陽芽ちゃん可愛いなー。」

「チャラい。」
遥太がぼそっとつぶやく。

「は?お前嫉妬か?」

「してねぇ。」

「絶対してる。」

「してない。」

 視線がぶつかる。
けれどそのやり取りは、どこか楽しそうだった。

「ふたりともケンカやめてください……」

 陽芽が困ったように言うと――
 遥太が一瞬だけ、陽芽をじっと見つめた。

「……ごめん。
 陽芽さん困らせんのは……やだ。」

「っ……!」

 胸が変な風に跳ねた。
 自分でもびっくりするくらい大きく。

(なにこれ……どうした私……)

 咲良はその反応も見逃さなかった。

(……陽芽、ぜったい気づいてないけど……
 遥太、好きになってるよね……)

 春の風が吹き抜ける。

 4人の距離はまだ曖昧で、
けれど、確実に動き始めていた