僕は蒼を百貨店の出入り口付近にある大きな柱の影で待機させ、一人で会計のレジ列に並んだ。
流石に、会計の際に見える五千八百円という値段を見て蒼いに「そんな高いの、やっぱやめよー!」と言われる可能性を考えられないくらい、僕は馬鹿じゃない。
彼女は優しいから、きっとその贈り物を拒んでしまうだろう。
「次にお並びのお客様、こちらへどうぞ」
店員さんの声に促され、僕はカウンターへ進んだ。
プレゼント用の包装をするか一瞬迷ったけれど、冷え込んできた外の空気を思い出し、すぐに使うだろうと判断して断った。
丁寧すぎるリボンよりも、今すぐ彼女の首元を温めてあげたい。
会計を済ませ、マフラーを受け取ろうとしたその時だった。
にっこりと微笑んだ店員さんが、僕の目を見つめて静かに言葉を添えた。
「可愛らしい彼女さんですね」
「え⋯⋯?」
心臓が跳ね上がった。咄嗟に言葉を返せず、呆然と店員さんの顔を見つめる。
胸のネームプレートには「蓮見」と書かれていた。
「お待たせして申し訳ありませんでした。どうぞ、ご幸せに」
そう言って彼女が向けた視線の先には、柱の陰で所在なげに、けれど僕を信じてじっと待っている蒼の姿があった。
一瞬、本当に一瞬だけ、店員さんの瞳に映る世界と、僕が見ている景色が完全に重なったような気がした。
彼女は幻覚なんかじゃない。
僕の脳が作り出した出来損ないの夢なんかじゃなく、通りすがりの誰かが可愛らしいと称賛する、血の通った一人の少女なのだと。
そんな甘い、熱を帯びた希望が脳内を駆け巡る。
けれど、次の瞬間には、冷や水を浴びせられたような感覚が僕を現実に引き戻した。
⋯⋯いや、違う。僕がそう見ているだけだ。
さっきも、僕が都合のいいように見えたじゃないか。
店員さんはただ、独り言を呟いたり、虚空を気にしたりする僕の奇妙な挙動を察して、気を利かせたのかもしれない。
僕は震える手でマフラーの袋を掴み、逃げるようにレジを離れた。
店員さんの言葉を「真実」だと思いたい自分と、「そんなはずはない」と冷笑する自分がいた。
