「デートの時に体が動かなかったら困るでしょ。はい、寝る!」
蒼に半ば強制的にベッドへ連行され、僕は素直に横になった。
隣では、僕の葛藤なんて露知らず、彼女が穏やかな寝息を立て始めている。
僕は寝返りを打ち、暗闇の中でスマホに手を伸ばした。
画面を点けると、通知欄には一ヶ月間放置していた幸一と島からのメッセージが、濁流のように溢れていた。
『佑介ーー!!生きてるかー!!』
『返信しろよ、マジで』
既読すらつかない僕を心配してか、通知数は「999+」という異常な数字を叩き出している。
『既読数増えてね?』
『怖いこと言うなよ』
深夜のテンションで騒ぐ二人のやり取りに、僕は思わず小さく吹き出した。
『ごめん。色々忙しくて』
返信を送った瞬間、瞬く間に既読がついた。
『!?がちやん』
『お前、生きてたのか!』
嵐のような反応に苦笑しながら、僕は単刀直入に打ち込んだ。
『女性に贈るプレゼントって、何がいいと思う?』
一瞬、グループラインが静まり返る。
『は?』
『佑介、入院中に彼女でもできたのか?』
島の冷静な問いかけに、僕は隣で眠る蒼の横顔を盗み見た。
『まぁ、そんなとこ』
認めると、幸一の「感動で泣きそう」というスタンプが連打された。
その後、島が幸一をなだめつつ、真剣な相談に乗ってくれた。
『冬だし、マフラーとかどうだ?』
幸一の提案に、僕は指を止める。マフラー。
形があって、首元を温めてくれるもの。今の彼女には一番必要なものかもしれない。
『ありがと。助かったよ』
『おう。彼女によろしくなー♪』
その後、色々と事情聴取をされ、画面を消すと、いつの間にか蒼が目を覚ましていた。
彼女は至近距離で僕をじっと見つめている。
「⋯⋯どうしたの?」
照れ隠しにそっぽを向くと、蒼は「寝よ⋯⋯ふぁぁあ」と大きな欠伸をして、僕に布団をばふっ、と被せてきた。
「いてて⋯⋯」
抗議の声を上げようとしたけれど、シーツから立ち昇る蒼の桜の香りが鼻先を掠め、言葉が霧散する。
この香りに包まれている時だけは、自分が消えてしまいそうな不安も、死への恐怖も忘れることができた。
「おやすみ、蒼」
僕は深い、深い夢の底へと落ちていった。
