夢幻に消えた君と、存在しない約束の続きを。



僕は蒼にせがまれるままに、一階の購買施設へと向かった。
彼女は病院内の施設に興味津々で、売店から漂ってくる香ばしい匂いに鼻を近づけていた。


「ねえ、あそこのパン、すっごく美味しそう! 私、あのクロワッサンが食べてみたいな」


そう言って僕の袖を軽く引く彼女は、どこからどう見ても普通の女の子だった。
賑わう購買の列に並び、僕はトングを握りしめた。


周囲の人々には、僕が一人で買い物をしているように映っているはずだ。
けれど、僕の隣には確かに蒼がいて、トレイに乗る商品を一つひとつ丁寧に吟味していた。


蒼が指を指すクロワッサンと、その隣のクロワッサンをトングで掴む。
眼の前のパンを蒼が素手で触りそうになっているのを見かけて、一人で病室に戻るように言っておいた。


レジに持っていくと定員の人が、会計をしながら周りを見渡した。


「はい。二つですね。お連れ様でもいらっしゃるんですか?」


「いえ、お腹が空いているので、自分で二つ食べようと思って⋯⋯あはは」


とっさに言い訳をして、僕は温かな袋を抱えるようにして受け取った。