屋上の重いドアを開けると、空は高く、どこまでも澄み渡っている。
そして、病院の中とは思えないほど豊かな緑が広がっていた。
手入れされた植栽が並び、木製のベンチや日除けのパラソルが並んでいる。
穏やかな午後の公園のような風景だ。
ベンチには、数人の入院患者が座っていた。
車椅子で静かに外を眺める老人や、母親と楽しそうに庭園を歩く練習をしている小さな子供。
別の棟にいる人たちも屋上はひとつ。
みんな、この場所にある確かな現実の中で、懸命に生きている。
フェンス越しに見下ろす街並みは、事故に遭う前と何も変わっていないように見えた。
街を見下ろすと、遠くに海が見えた。
車が列をつくり、学生たちが笑い合っている。
つい数日前まで僕がいたはずの世界が、今はガラス越しに眺めるジオラマのように遠い。
「あ、ごめんなさい⋯⋯」
足のあたりに小さな衝撃があったと思えば、小学生グラの女の子が松葉杖をつきながら頭を下げていた。
「ごめん!僕もぼうっとしてた。怪我はない?」
女の子はこくこくと頷くと、母親のもとにゆっくりと歩いていった。
「⋯⋯みんな、戦ってるんだな」
独り言が風にさらわれる。
ここにいる人たちは、きっといつか治ることを信じて、この白い建物の中に身を置いている。
お昼チャイムが鳴り、屋上にいた人たちが病棟に戻っていく。
僕は学校のこと、幸一と島のことを考えた。
今頃、四時限目が始まっているだろうか。
あいつらと一緒に、あの当たり前の日常に戻りたい。
でも、その願いが強くなるほど、胸の奥で正体不明の違和感が疼く。
漠然とした不安を感じて、病室に戻った。
