先生が口にしたのは、耳慣れない、けれど呪文のように不吉な言葉だった。
「特発性夢幻症候群(とくはつせいむげんしょうこうぐん)。脳が見せる幻覚が少しずつ現実を上書きし、やがて本人の意識が「夢」の世界に完全に取り込まれてしまう、原因不明の不治の病だ」
頭の奥が冷たくなるのを感じた。
「完治の条件はただ一つ。君の視界に現れる幻覚の対象者を特定し、その存在を君の意識から完全に排除すること」
先生の声は、事務的で、だからこそ容赦がなかった。
「この病は、現実の人間⋯⋯特に親しい友人や家族との接触が、幻覚との区別を狂わせ、パニックを引き起こす要因になる。君を守るため、今日から個室へ移動してもらう。そして、今日を最後に友人たちとの面会も、原則として禁止になるんだ」
「⋯⋯面会、禁止?」
震える声で聞き返した。
やっと目が覚めて、幸一や島と「またな」って笑い合えると思ったのに。
先生はゆっくりと寂しそうな顔で頷く。
「君の脳が現実を拒絶し始める前に、隔離する必要があるんだ。⋯⋯すまない」
