夢幻に消えた君と、存在しない約束の続きを。



結局、あまりに顔色が悪いからと、私は強引に病院へ連れて行かれた。


「私は大丈夫だよ。ただの寝不足だってば」


待合室で膨れる私を無視して、深刻な顔で小児科の先生と話し込んでいる。
カーテン越しに漏れ聞こえてくるのは、「ストレス性」「環境の変化」という言葉。


「⋯⋯お母様。蒼さんの外出をあまりに制限しすぎるのも、原因かもしれません。彼女はもう中学生です。少しずつ、ご自分の足で歩かせてあげてはどうですか」 

「過去から守ることも大切ですが、彼女の今を殺してはいけません。彼女自身が向き合うべき権利でもあるんですよ」


先生の言葉に、母が声を荒らげるのがわかった。


「もし思い出してしまったら⋯⋯!」
 

私は息を呑んだ。
それからは、母が私に聞かれないように声を小さく戻してしまった。


何を思い出してはいけないんだろう。


診察室から出てきた母は、今まで見たこともないほど疲れ果てていた。

結局、その日の午後、私は「数時間だけ、近所を散歩する」という許可をようやく勝ち取った。
条件は、GPSを持たされることと、夕食までには必ず帰ること。


私は逃げるように家を飛び出した。

私の失われた記憶が、あの日私を求めた誰かが、あの場所の向こうで待っているような気がした。