私の世界は、いつからこんなに清潔で空っぽになってしまったのだろう。
大きな窓から差し込む春の光。
丁寧に整えられた部屋。
両親の、痛みを感じるほどの優しい眼差し。
八年前の事故のあと、私は何不自由なく育てられてきた。
後遺症は残らなかったし、体だって不自由ではない。けれど、決して自由でもなかった。
「蒼、今日も学校まで車で送るわね。一人で歩くのはまだ危ないから」
「お母さん、もう中学生だよ?これくらい大丈夫なのに」
母は困ったように微笑むけれど、その瞳の奥には、私が知らない何かに怯えているような、何かを隠す子供のような色が混ざっている。
大人のつく平気な嘘は、いつだって何かから私を守っているのだと、私なりに気づいてはいた。
「⋯⋯最近、ちゃんと眠れてる?なんだか顔色が悪いわよ」
「うん。⋯⋯ただ、最近変な夢を見るの」
「夢⋯⋯?」
母の手が、ピクリと止まる。
「不思議で、懐かしい夢。誰かと一緒にいて、笑ったり、何かを食べたりしてるんだけど⋯⋯」
私がそう告げると、母はひどく狼狽したように視線を逸らした。
私は、ずっと何かを失っている。
それは記憶という言葉では片付けられない、もっと魂に近い部分の欠落。
相手のことを思い出したくて、思い出したくてたまらないのに、世界の決まりと言わんばかりにそれが叶わない。
内容はあんなに鮮明なのに、題名だけがどうしても思い出せない本を読んでいるみたいで、胸の奥がずっとざわざわする。
自分というパズルの真ん中に、ぽっかりと穴が開いているような、冷たい飢餓感。
両親が私から遠ざけようとしている何か。
それが私の、失われたピースなのだと、心のどこかで確信していた。
