「⋯⋯佑介。蒼ちゃんの居場所は、分からない」
ハンドルを握ったまま、父さんが静かに言った。
「あの日、彼女のご両親は『二度と会わせない』と僕に告げた。連絡先も、引っ越し先も、すべて断ち切られたんだ。⋯⋯済まない。言えるのは、それだけだ」
僕は黙って窓の外を流れる景色を見ていた。居場所が分からないことなんて、百も承知だ。
でも、不思議と絶望はしていなかった。
「いいよ、父さん。⋯⋯父さんも、母さんが死んだあと、ずっと母さんを探してたんだろ?」
僕の言葉に、父さんの手がわずかに震えた。
「⋯⋯ああ。夢の中でも、街角でもな。⋯⋯だから、お前が彼女を止められない気持ちは、痛いほど分かる」
父さんは、探しに行く僕を止めなかった。
それは、彼自身が愛する人を失うという地獄を知っているから。
そして、その地獄から救い出してくれるのは、他人ではなく、自分の意志だけだと知っているからだ。
「行ってこい。⋯⋯ただし、自分を壊すな。それが、約束だ」
車は、僕たちの住んでいた、あの街へと向かっていた。
手がかりは、八年前のあの日から止まったままの記憶。
雲の隙間から春の陽光が差し込む。
僕は青い手帳を握りしめ、自分に言い聞かせた。
待っていて、蒼。
