ぴんぽーん……

間の抜けた変なチャイム音に、いつもなら顔をしかめるところを、ゴクリと息を呑んだ。


―――来た……っ!!


「はぁーい」

普段通りを装うけど、声が分かりやすく硬くなっている。


「天馬です」


陽の光で明るくなったサラサラの藍色の髪に、黒縁の、横長四角のメガネ。

声は心地よいアルトボイス。 高すぎず低すぎない感じ、結構良い声だ。

目元はキリッとして硬派なイメージだけど、どこか柔らかい印象もあるし……。


「す、すぐ出ますっ!!」

ボゥっとしていたのを誤魔化すように、すぐさま扉を開ける。


すると、さっきのメガネの人の両サイドに二人、彼と近しいビジュアルの人が。



「北村麗癒さん……だよな。少しの間住まわせてもらう天馬だ」


「はーじめまして〜。麗癒ちゃん、よろしくねっ」


「これから迷惑かけると思うから、そのつもりでいろよ」




「えぇっと……真ん中の、メガネの人が天馬さんであってますか……?」


彼の右側には、藍色の髪を耳の下まで伸ばし、横髪をカラフルなピンで留めた男の子。

メガネの人よりは、やや幼く見えるかも。


左には、藍色の髪を無造作に切ったような雑なヘアスタイルの男子。

同い年っぽいような、そうじゃないような……THE・ぶっきらぼうって感じだ……。



私はどれが天馬さんか分からず、困惑してしまうけど。

メガネの人は首を少し傾げ、何か腑に落ちたようにこちらに向き直った。



「……あぁ、済まない。 天馬は苗字で……―――俺たちは、三兄弟なんだ」


「…………はぇ?」

つ、つまり、右の人も天馬さん、真ん中の人も天馬さん、左の人も天馬さん……!?


「俺は天馬紗和(さわ)。糸偏に少ない、それと和食の和で紗和。 中学三年生で、天馬家の長男だ」


「僕は史雨(しう)。次男で、中二だよ。ちなみに、歴史の史に雨って書くんだ〜」


「三男で一年生の夏空(そら)だ。夏の空で、ソラって読む」



「メガネの人が紗和さん、右の人が史雨さん、左の人が夏空さん……」

覚えるために、口に出して呼んだ。


「あ……私も自己紹介していいですかっ?
えぇと、北村麗癒です。綺麗の麗に癒しって書いて、レユっていいます。中学一年です」


「知ってる〜、来る前聞いたもん」

そ、そういえば、最初私の名前呼んでたような気が……!


「麗癒さんは、三兄弟だって聞いてなかったのか?」

「し、知りませんでした……!! 来るってこと以外、何も聞けてなくって……」

考えてみれば、もっとちゃんと聞いておくべきだったよね……あはは……。


「せっかく一緒に住むんだから、紗和さんたちのことも、もっと知りたいです!!」

「えへへ、ありがと〜。 あ、そうだ!
麗癒ちゃん、呼び捨てで良いよっ。 タメ口でもおっけー!」


「え……先輩なのに、そんな……」

「別に良い。 慣れていないから、取ってもらったほうがありがたい」

「じゃあ……えっと……ありがとうっ!
……で、でも呼び捨てにはできないから……くんづけで呼ぶねっ?」


「いいよいいよ〜、改めて、仲良くしよーねっ」

「……じゃ、じゃあ……俺も、麗癒さんのこと、呼び捨てにしても良いか……?」

恐る恐るというように、遠慮がちに尋ねてきた紗和……くん。

犬耳が垂れているようにさえ見える可愛さだよっ……!!

「もちろんっ!」

「ありがとう……麗癒」


こういうの、なんだかくすぐったいけど、楽しいなっ……。




「……そろそろいい?もう正直立ってるのきつくなってきたんだけど」

「あああっ、ごめんなさいっ!! 入って良いよ! 紗和くんたちもどうぞっ」

「じゃあ、どーも。おじゃましまーす」

「失礼します…………まったく、夏空はどうして、そんなに遠慮がないんだ……」

「いっ、いえいえ! 夏空くんが言ってくれなかったら、私きっと忘れてたので……!!」

「麗癒ちゃんって優しいねっ。 でも不満なら不満って言いなよ?溜まっちゃうから」

「えへへ、ありがとう、史雨くんっ」

うちの廊下を歩きながら、おしゃべりをする。


「お礼言われるほどのことじゃないってば。麗癒はお人好しすぎ」

まるで妹のように扱われて、あったかい気持ちになった。
ほんとにお兄ちゃんができた気分だ……。

「史雨に同意だな。麗癒は詐欺とかに騙されやすいような気がしてならない」

「そんなことない……はずだよっ! 大丈夫、心配しないで!!」

そう言ってにっこり笑っていると、夏空くんの声が飛んでくる。


「紗和兄たち、はやく荷解きすれば?」

「……はぁ……夏空、そこは俺たちの家じゃないんだぞ!!」

「ほんっと、夏空って自由奔放だね〜」


「だ、大丈夫だよーっ。ふたりともほら、荷解きしよう?手伝おうかっ?」

私が手を広げて言うと、紗和くんが少しピリッとして言った。


「一人でやるから良い……だから、近づくな」

「ふーん……分かった。 でも、どうして?」

首を傾げて尋ねて、紗和くんの返答を待つ。


「……自分で満足にこなせず人に頼るのは、人間として恥ずべきことだからだ」

「そんなことないような…………じ、じゃぁ、史雨くんもお手伝いしないほうがいい?」


「えぇ〜……麗癒ちゃんお願い、やってー」

史雨くんは、拗ねたように言った。 紗和くんとは正反対だ……。

「荷解き、おねがいっ!! おやつあげるから〜っ」

「いいよ、おやつなんかなくなったって。やってあげるよっ!」

「ありがと〜っ」

笑顔の史雨くん。

にっこにこの彼とは対照的に、紗和くんはしかめっ面をした。


「……頼りすぎはよくないぞ。麗癒も暇じゃないんだからな」

「は〜い!!僕も手伝うね〜」

まるで親と子供のような微笑ましいやり取りに、思わずふふっと笑ってしまう。


「そういえば、夏空くんは? 史雨くんみたいに、荷解き、手伝わなくてもいい?」

「兄貴達、めんどい……てか、何かするとかダルい」

「へ?」

突然の予想外の言葉に目が点になる。

急にどうしたの……!

って、今の言い方、紗和くんとかを夏空くんが面倒見てたみたい……。

意外とって言い方は失礼かもしれないけど、苦労してたんだな……。

わ、私からしたら、夏空くんも充分クセが強いんだけど……!!


「何事も全力って、馬鹿みたいだろ。 そんなに頑張らなくて良いんだよ」

ば、馬鹿みたいって…………!!


「っふふ。はははっ……アホっぽい顔してんなよ、家主さん」

ひ、皮肉だ〜っ……!!

「……に、荷解き、早くすればっ……!?」

怒りでワナワナと震えながら、そう言った。

睨みつけたいのに身長差のせいで、自然と上目遣いしなきゃいけないのが癪に障る。

「ふっ。 背、頑張って伸ばしなよ、ちびっ子家主」

私の考えることが分かっているのか、見下ろしながらそう言った夏空くん。



紗和くんも史雨くんも優しいのに、夏空くんは超いじわるな人だっ……。