黒のショートヘアを丁寧に梳かして、前髪を整えた自分の姿。
……うん、今日も身だしなみは大丈夫っ……!
鏡を見ると、笑顔の私・北村麗癒が映っている。
自分の見た目に自信がない私は、こうやって自分を良く見せるんだ。
だってそうしないと、周りに失礼だし、惨めになっちゃうから……。
一つ息を吐くと、マイナスな気分を振り払うように、にっこりと口角を上げる。
「いってきまーすっ」
お母さんとお父さんに挨拶すると、珍しく奥から声が返ってきた。
「お母さんから話があるから、早めに帰ってきてくれよーっ!」
「分かったー!」
話ってなんだろう……と首を傾げながら、大きな声で返事をした。
そんなことより、今日も学校、頑張らなきゃっ……!!
「麗癒ちゃん、おはようございます〜」
「ああ、麗癒。おはよう……今日、ちょっと早いわね」
「美玖、亜良、おはよっ!」
亦木美玖は、おっとり系でゆるりとした女の子。
橋之亜良は、ちょっとツンツンしてるけど、実はすごく優しい私の幼馴染。
「そういえば、今日って地理の小テストじゃなかった?」
亜良の言葉に、ハッとする。
「すっかり忘れてたあ……って、全然勉強できてない!大丈夫かな……」
「今回は簡単なところだし、麗癒なら大丈夫でしょ。それより、美玖は大丈夫なの?」
「確かに……」
亜良の言う通り、私は大丈夫そうだけど……美玖は先週まで休んでたんだっけ。
亜良が心配そうに声をかけると、美玖がふわふわと返事をする。
「ほんとだ、一週間も休んでたから全然分からないです……ノート見せてくれませんか?」
「もちろん。私、美玖を見捨てるほど冷酷じゃないもの」
「あっ……美玖、亜良のノート、一緒に見せてっ!私、ノート全然取ってなくて……」
「良いですよ〜。どうぞ、麗癒ちゃん」
「ありがとうっ!」
ノートをせがむと、美玖が了承してくれる。
これでテストも安心だっ……。
「そういえば、二人ともテストどうだったっ?」
放課後、二人に問いかける。
「私はいつも通り。見直してたら一個だけミスを見つけたから、それは直したけど」
「うーん……私はちょっと不安です……分からない所が多かったのでっ……」
「私は、今回は結構自信あるんだっ!」
亜良のお陰っ、と続けようとしたところで、口を止めた。
……お母さんに、早く帰れって言われてたんだったっ……!
「ごめんっ、今日急いで帰らないといけないの思い出して……ばいばい、また明日っ!」
亜良と美玖に大きく手を振って背を向ける。
亜良と美玖に申し訳ないなあ……これも全部、お母さんのせいだっ!
少し怒りながら走って、家に着いた途端声を張り上げた。
「たっだいまー!!」
「あぁ、麗癒。話があるから、手を洗ってこっちにいらっしゃい」
「はーい」
素直に手を洗ってリビングへと向かう。
「何の話なの?」
「えっとね、…………そ、そういえば麗癒、男の子が苦手とかってある?」
私が本題を尋ねると、お母さんが歯切れ悪くそう聞いた。
「へっ?……な、ないけど……急にどうしたの?」
「良かった……なら、お願いがあるの」
困惑気味の私の言葉に、お母さんはホッとしたようにそう言った。
「――天馬くんを、三ヶ月くらいうちに住まわせてもいいかしら?」
「えっ、へっ……男子がうちに住むのっ……?どうして?ていうか、天馬くんって……?」
状況を飲み込めず取り乱す私に、お母さんはおっとりと返した。
「えっとね、天馬くんは、私の叔父の姉の、従兄妹の孫なの」
突飛なお母さんの説明に、理解が追いつかない。お母さんは続けた。
「うちに来る理由は、説明すると長くなるんだけど」
「いいよ、聞かせて!」
好奇心が勝り食い気味に返した私の前で、お母さんのスマホが鳴った。
「あっ……仕事で呼ばれたから、行かなくちゃ」
「えっ」
「これから私忙しくなるから……うちに泊まる理由は、本人たちにでも聞いて!」
「え……は、はやく聞かせてよーっ!!」
私はむくれたあと、お母さんの発言に首をかしげる。
本人、たち……?
「ごめーん!じゃ、行ってくるからね!天馬くん、二週間したらこっちに来る予定だから!」
「え、あ、うん、いってらっしゃーい……!」
笑ってそう言ったけど、内心では疑問が燻っていた。
だって、不透明な点が多すぎるよ。
って、二週間っ……!?
早すぎる……でも、ちょっと気になるな。
どんな子なんだろう……っ?



