悠真との徹夜作業を経て、雪菜は再び彼の優しさに触れ、一度は諦めかけた恋心が再燃した。二人の間には、トラブルを乗り越えたことで、言葉にはできない特別な絆が生まれたように感じられた。しかし、その「秘密の共有」は、志穂の目には全く別の形で映ることになる。
数日後、プロジェクトは無事に軌道修正され、雪菜のミスによる影響も最小限に抑えられた。これは、ひとえに悠真の迅速な対応と、雪菜の徹夜での懸命な作業の賜物だった。
その日の午後、雪菜は完成した最終報告書を悠真に提出するため、彼のオフィスに向かっていた。廊下を歩いていると、ちょうど志穂が、悠真のオフィスから出てくるところだった。志穂は、新しいビジネスプランについて悠真と打ち合わせをしていたらしい。
「お姉様」
雪菜が声をかけると、志穂は満面の笑顔で振り返った。
「あら、雪菜!ちょうど良かったわ。今、悠真さんと新しい事業のことで話していたのよ。あなたも、何か悠真さんに用事?」
雪菜は、手元の報告書を志穂に見せた。
「はい。先日、プロジェクトで少しトラブルがありまして…その件で、悠真さんにご報告を」
雪菜は、具体的な内容をぼかすように話した。まさか、自分が致命的なミスを犯し、悠真が徹夜で助けてくれたなど、志穂には言えるはずもなかったからだ。
「あら、そうなの?あらあら、雪菜、随分と顔色が悪そうじゃない。隈もできてるわ」
志穂は、雪菜の顔を心配そうに覗き込んだ。
「もしかして、あのトラブルとやらで、無理しすぎたんじゃないの?普段からおっとりしているくせに、変なところで頑張るんだから」
志穂の声には、妹を心配する姉としての愛情が込められていた。
その時、悠真がオフィスから出てきた。
「志穂、話は終わったのか」
悠真が志穂に声をかける。そして、彼の視線が雪菜に向けられた。悠真の瞳は、雪菜の憔悴した顔を見て、一瞬だけ心配そうな色を宿したが、すぐにビジネスライクな表情に戻った。
「ええ、終わったわ。それより悠真さん、雪菜のことなんだけど」
志穂は、雪菜の顔色を心配する様子で、悠真に話しかけた。
「最近、雪菜、少し無理をしているみたいでね。顔色も悪いし。あなた、いつも雪菜のこと気にかけてくれるから、また何かあったら、どうか、この子を助けてあげてちょうだいね」
志穂の言葉に、雪菜は凍り付いた。
志穂は、悠真が自分を助けてくれたこと、そして、そのために徹夜で共に過ごしたことなど、全く知らない。雪菜の憔悴した様子を見て、ただ妹を気遣う姉として、悠真に「お願い」をしただけだ。
志穂の瞳は、一点の曇りもなく、悠真への深い信頼と、妹への愛情に満ちていた。
「ああ、分かったよ、志穂。雪菜のことは、私がよく見ておく」
悠真は、志穂の言葉に、穏やかに頷いた。その返答は、志穂を安心させるものだったが、悠真の視線は、再び雪菜の顔をちらりと捉えた。その瞳の奥には、志穂の誤解を前に、微かな複雑さと、罪悪感のようなものが浮かんでいるように見えた。
雪菜は、その場に立ち尽くすことしかできなかった。
志穂は、悠真と自分の間に何があったのか、全く知らない。
そして、悠真は、その「秘密の共有」を、志穂に悟らせないように、完璧に振る舞っている。
志穂の無邪気な「お願い」は、悠真にとって、雪菜への感情を、さらに深く心の奥底に封じ込めるための、重い鎖となってしまったかのようだった。
「じゃあ、私、これで」
志穂は、悠真に笑顔を向け、そして雪菜の肩をポンと叩いて、足早に去っていった。
残された雪菜と悠真の間には、重い沈黙が落ちた。
「…報告書は、後で確認する」
悠真は、雪菜から目を逸らし、冷たい声でそう言い放った。
彼の表情は、再び、あの婚約発表後のような、突き放すようなものに戻っていた。
雪菜は、彼の態度の変化に、心臓を鷲掴みにされたような痛みを感じた。
志穂の誤解が、二人の間に再び厚い壁を築いてしまったのだ。
「はい…失礼いたします」
雪菜は、震える手で報告書をデスクに置き、逃げるようにその場を後にした。
廊下を歩く雪菜の足取りは、鉛のように重かった。
一度は、悠真との間に生まれたはずの温かい絆は、志穂の無邪気な言葉によって、再び深い雪の中に埋もれてしまったかのようだった。
雪菜の心は、絶望と、そして、誰にも言えない秘密を抱え込んだ重さで、深く沈んでいった。
彼女の淡雪色の恋は、再び、厳しい冬の凍えるような寒さに晒されることになったのだった。
数日後、プロジェクトは無事に軌道修正され、雪菜のミスによる影響も最小限に抑えられた。これは、ひとえに悠真の迅速な対応と、雪菜の徹夜での懸命な作業の賜物だった。
その日の午後、雪菜は完成した最終報告書を悠真に提出するため、彼のオフィスに向かっていた。廊下を歩いていると、ちょうど志穂が、悠真のオフィスから出てくるところだった。志穂は、新しいビジネスプランについて悠真と打ち合わせをしていたらしい。
「お姉様」
雪菜が声をかけると、志穂は満面の笑顔で振り返った。
「あら、雪菜!ちょうど良かったわ。今、悠真さんと新しい事業のことで話していたのよ。あなたも、何か悠真さんに用事?」
雪菜は、手元の報告書を志穂に見せた。
「はい。先日、プロジェクトで少しトラブルがありまして…その件で、悠真さんにご報告を」
雪菜は、具体的な内容をぼかすように話した。まさか、自分が致命的なミスを犯し、悠真が徹夜で助けてくれたなど、志穂には言えるはずもなかったからだ。
「あら、そうなの?あらあら、雪菜、随分と顔色が悪そうじゃない。隈もできてるわ」
志穂は、雪菜の顔を心配そうに覗き込んだ。
「もしかして、あのトラブルとやらで、無理しすぎたんじゃないの?普段からおっとりしているくせに、変なところで頑張るんだから」
志穂の声には、妹を心配する姉としての愛情が込められていた。
その時、悠真がオフィスから出てきた。
「志穂、話は終わったのか」
悠真が志穂に声をかける。そして、彼の視線が雪菜に向けられた。悠真の瞳は、雪菜の憔悴した顔を見て、一瞬だけ心配そうな色を宿したが、すぐにビジネスライクな表情に戻った。
「ええ、終わったわ。それより悠真さん、雪菜のことなんだけど」
志穂は、雪菜の顔色を心配する様子で、悠真に話しかけた。
「最近、雪菜、少し無理をしているみたいでね。顔色も悪いし。あなた、いつも雪菜のこと気にかけてくれるから、また何かあったら、どうか、この子を助けてあげてちょうだいね」
志穂の言葉に、雪菜は凍り付いた。
志穂は、悠真が自分を助けてくれたこと、そして、そのために徹夜で共に過ごしたことなど、全く知らない。雪菜の憔悴した様子を見て、ただ妹を気遣う姉として、悠真に「お願い」をしただけだ。
志穂の瞳は、一点の曇りもなく、悠真への深い信頼と、妹への愛情に満ちていた。
「ああ、分かったよ、志穂。雪菜のことは、私がよく見ておく」
悠真は、志穂の言葉に、穏やかに頷いた。その返答は、志穂を安心させるものだったが、悠真の視線は、再び雪菜の顔をちらりと捉えた。その瞳の奥には、志穂の誤解を前に、微かな複雑さと、罪悪感のようなものが浮かんでいるように見えた。
雪菜は、その場に立ち尽くすことしかできなかった。
志穂は、悠真と自分の間に何があったのか、全く知らない。
そして、悠真は、その「秘密の共有」を、志穂に悟らせないように、完璧に振る舞っている。
志穂の無邪気な「お願い」は、悠真にとって、雪菜への感情を、さらに深く心の奥底に封じ込めるための、重い鎖となってしまったかのようだった。
「じゃあ、私、これで」
志穂は、悠真に笑顔を向け、そして雪菜の肩をポンと叩いて、足早に去っていった。
残された雪菜と悠真の間には、重い沈黙が落ちた。
「…報告書は、後で確認する」
悠真は、雪菜から目を逸らし、冷たい声でそう言い放った。
彼の表情は、再び、あの婚約発表後のような、突き放すようなものに戻っていた。
雪菜は、彼の態度の変化に、心臓を鷲掴みにされたような痛みを感じた。
志穂の誤解が、二人の間に再び厚い壁を築いてしまったのだ。
「はい…失礼いたします」
雪菜は、震える手で報告書をデスクに置き、逃げるようにその場を後にした。
廊下を歩く雪菜の足取りは、鉛のように重かった。
一度は、悠真との間に生まれたはずの温かい絆は、志穂の無邪気な言葉によって、再び深い雪の中に埋もれてしまったかのようだった。
雪菜の心は、絶望と、そして、誰にも言えない秘密を抱え込んだ重さで、深く沈んでいった。
彼女の淡雪色の恋は、再び、厳しい冬の凍えるような寒さに晒されることになったのだった。

