幼馴染の影と三年目の誤解 ――その笑顔は、私に向かない

昼下がりのリビング。
窓から差し込む陽だまりが柔らかく床を照らし、
その光の中で、
由奈は洗濯物を畳んでいた。

静かで、
どこにでもあるような日常のひとコマ。

けれど由奈の胸は、
以前とはまるで違う安らぎで満たされていた。

(……こうして過ごす時間が、
こんなに幸せだなんて)

ふと視線を向けると、
キッチンでコーヒーを淹れている隼人の姿が見えた。

背の高い身体。
静かな仕草。
その輪郭すべてが、
“帰る場所”だとわかる人。

隼人がカップを二つ持って近づいてくる。

「疲れてないか?」

「大丈夫です。
隼人さんの淹れたコーヒーの匂いがして……
なんだか落ち着きました」

隼人はカップをテーブルに置き、
少し照れくさそうに笑う。

「そんなことで落ち着くなら、
毎日淹れてやるよ」

由奈は思わず微笑んだ。

「……毎日?」

「当たり前だろ。
夫婦なんだから」

隼人の言葉はいつも通り淡々としているのに、
ちゃんと甘い。



二人並んでソファに座り、
しばしコーヒーを飲む静かな時間が続いた。

街のざわめきも、
職場の噂も、
過去の影も、
いまは遠く感じる。

由奈はふと、
隼人の横顔を見上げた。

「隼人さん」

「ん?」

「これから……
平穏な日々が続くといいですね」

隼人はカップを持つ手を止め、
由奈の手をそっと指先で触れた。

「続くよ。
俺が続かせる」

由奈の胸がふわりと温かくなる。

「……そういうところ、
安心するというか……嬉しいです」

隼人は彼女の言葉に口元を緩める。

「それなら、もっと言っておくか」

「え……?」

隼人は由奈の手を包み込み、
少し身を寄せた。

「未来のことは……
全部、由奈と考えるつもりだ。
仕事だって、家のことだって……
どんな小さなことでも」

由奈の目が大きく見開く。

「隼人さん……
そんなふうに言ってくれるなんて……」

「俺も変わったんだよ。
お前が思ってる以上に」

その言い方が少し照れていて、
由奈の胸がきゅっとなる。

「わたしも……
強くなりたいです。
隼人さんに守られてばかりじゃなくて……
ちゃんと支えられる奥さんでいたい」

隼人は目を細め、
優しく頭を撫でた。

「十分、支えてくれてるよ。
気づいてないだけで」

「わたし……ですか?」

「由奈が笑ってくれるだけで、
俺は救われる」

その言葉は甘さよりも、
深い誠実さで満ちていた。

由奈は胸にこみ上げる想いを抑えられず、
そっと隼人の肩に寄りかかった。

「……これからも、
隼人さんの隣で生きたいです」

「もちろん」

隼人はゆっくりと由奈を抱き寄せる。

「俺の未来は、最初からそのつもりだ」

由奈は瞳を閉じた。

隼人の体温、
胸の鼓動、
コーヒーの香り。

すべてが、
未来へ向かう合図のように優しかった。

外の世界がどう変わっても——
二人でいれば大丈夫。

未来はきっと、
今日よりも明日が温かくなる。

由奈は静かに微笑み、
隼人の胸に身を預けた。

ふたりの新しい日々は、
静かに、確実に始まっていった。