幼馴染の影と三年目の誤解 ――その笑顔は、私に向かない

朝の光は優しく、
寝室のレースカーテンを柔らかく透かしていた。

由奈がまぶたを開けると、
最初に目に入ったのは
隼人の胸にかかる自分の手だった。

(……あ、寝てる間に……
触れてたんだ)

恥ずかしさよりも、
その自然さが嬉しかった。

横を見ると、
隼人はすでに目を開けていた。

「……おはよう」

掠れた低い声。
朝の隼人の声は、いつもより少し甘い。

由奈は思わず頬を染めた。

「おはようございます……
隼人さん、もう起きてたんですね」

「由奈が動いたら目が覚めた」

微笑む隼人。
その穏やかな表情に、胸がじんと温かくなる。

由奈がそっと体を起こそうとすると——

隼人の手が、
彼女の手首をやわらかく捕まえた。

「……もう少し。
こうしてていい?」

その小さな“甘え”に、
由奈の胸がきゅんと鳴る。

「……はい」

二人はもう一度、
寄り添うように横になった。



しばらく静かな時間が流れ、
隼人がふいに口を開いた。

「……今日からは、
毎朝こうして迎えたいな」

由奈の胸が跳ねる。

「え……?」

隼人は、由奈の髪に指先を滑らせながら続けた。

「朝起きて……
隣に由奈がいるって思えるだけで、
どんな日でも頑張れる」

「隼人さん……」

「だから……
俺から離れないでほしい」

それは命令でも支配でもなく、
ただ心からの願いだった。

由奈は小さく息を吸って、
隼人の胸に顔を寄せる。

「……離れません。
どこにも行きません。
隼人さんの奥さんで……
ちゃんといたいです」

隼人の腕がそっと彼女を抱きしめる。

「……由奈。
俺の妻でいてくれてありがとう」

その声は震えていて、
ずっと胸の奥に閉じ込めていた感情が滲んでいた。

「隼人さん……?」

由奈が顔を上げると、
隼人の目が静かに細められた。

「……正直、怖かった。
由奈が俺を嫌うんじゃないかって」

「そんなこと……」

「いや。
あの頃は……
俺自身も何が正しいのか分からなくなってた」

隼人は自分の胸に手を当てて言う。

「だからこそ……
もう間違えない。
もう手遅れにもさせない」

言葉の端に、
あの日の苦しみが滲んでいる。

由奈は隼人の頬にそっと触れた。

「……隼人さん。
わたしも……怖かったんです」

隼人の目がわずかに揺れた。

「嫌われたらって……
愛されてなかったらって……
いつも不安で……
でも、それを伝える勇気もなくて……」

それを聞いた瞬間、
隼人は由奈の手を取って
強く抱きしめた。

「……もう、そんなふうに思わせない」

「はい……」

二人の額がそっと触れ合う。

柔らかな朝の光が、
寄り添う二人を優しく包む。

まるで、
“新しい夫婦の一日”が
静かに始まるのを祝福しているようだった。



隼人がゆっくり身体を起こし、
ベッドから降りた。

「朝ごはん、何が食べたい?」

キッチンに向かおうとする隼人の背に、
由奈が声をかけた。

「隼人さん」

隼人が振り向く。

「……今日の朝、
隼人さんと一緒に過ごせて……
本当に幸せです」

隼人は
胸の奥から込み上げる微笑みを隠さなかった。

「俺もだよ」

そして小さく付け加える。

「今日も、明日も。
これからもずっと」

その言葉は、
由奈にとって“約束の言葉”そのものだった。