翌朝、
由奈は胸の奥に少し緊張を抱えながらも、
まっすぐ会社へ向かった。
隼人に背中を押され、
「大丈夫」とやさしく言われたからこそ、
勇気が出た。
(隼人さんが言ってくれた……
“守るから”って)
その言葉を胸に抱いて、
由奈は会社のエントランスに入った。
エレベーターを待つ数名の同僚たちが、
由奈の姿に気づいた。
一瞬、空気が固まる。
(……また噂される……?)
由奈の胸がきゅっと縮んだ、そのとき――
「由奈ちゃん!」
明るく声をかけてきたのは、
同僚の佐伯だった。
「おはよう!
大丈夫だった?昨日……」
その笑顔と言葉に、
周囲がざわめいた。
「あ、佐伯さん……
おはようございます……」
佐伯は歩み寄り、
周囲に聞こえる声で言った。
「ちゃんと話したんだけどね、
昨日の“噂”、ほとんど全部デタラメだったみたい」
ざわり、と空気が揺れる。
「えっ、そうなの?」
「抱き寄せ写真って……違ったのか?」
佐伯は堂々と頷いた。
「うん。
あの写真、角度でそう“見えるだけ”。
少なくとも由奈ちゃんは、触れられてもいないよ」
周囲の女性たちが息を呑む。
由奈は思わず肩をすくめたが、
佐伯がそっと背中に手を添えた。
「大丈夫。
あなたは悪くない」
そのひと言が胸に染みた。
さらに、
別の同僚たちが口を開いた。
「……ごめんね、片岡さん。
私、噂を信じちゃって……」
「私も。
“泣いてた”って聞いて……
でもあれ、誰かがわざと広めてたんだって?」
「うん、どうやらね……」
佐伯は周囲を見回し、
少し声を落とした。
「噂の元が“どこから出たのか”も、
だいたい分かったし」
空気が変わった。
ざわ……と小さく波が広がる。
(みんな……気づいてる?
麗華さんのこと……)
でも佐伯は、
あえて名前を出さなかった。
大人のやさしさだった。
由奈は胸の奥が熱くなる。
(もう……
わたしだけが矢面に立たなくていいんだ……)
初めて知る感覚だった。
別の同僚が
おずおずと寄ってきた。
「片岡さん……
あの、昨日のことなんだけど」
由奈が小さく会釈すると――
「……旦那さん、
すごく心配してたって聞いたよ。
ソファで泣いてた片岡さん、
抱きしめてたって」
(……隼人さん……
そんなところまで……見られてたなんて)
由奈の顔が一気に熱くなる。
「な、なんでそれを……!?」
「見てたわけじゃないの!
総務の子が、廊下で“ちょっとだけ”聞こえたって……
すごく優しい声だったって……」
(隼人さん……)
胸が熱くなり、
視界がにじむ。
「……よかったね、片岡さん」
その一言に、
涙がこぼれそうになる。
席につくと、
席の隣の女性が小声で話しかけてきた。
「……あのさ、由奈ちゃん」
「はい……?」
「……
由奈ちゃんは、旦那さんに、
すごく愛されてるんだなって。」
「っ……」
「昨日、
“妻を守ります”って総務に言いに来てたって……
噂になってるよ」
由奈の胸は、
もう涙でいっぱいだった。
(隼人さん……
そんな……)
涙がこぼれそうになるのを
ぐっと堪えたとき――
佐伯がそっと肩を叩いた。
「ね?
もう大丈夫。
あなたは“守られてる側”に戻ったんだから」
由奈は唇を結び、
目の端を指で押さえた。
「……はい……
ありがとうございます……」
佐伯は笑って言った。
「礼なんていらないよ。
“味方がいる”って覚えておいて」
由奈の目に涙が光る。
孤独じゃない。
ひとりで戦わなくていい。
その実感が胸にあふれた。
由奈は胸の奥に少し緊張を抱えながらも、
まっすぐ会社へ向かった。
隼人に背中を押され、
「大丈夫」とやさしく言われたからこそ、
勇気が出た。
(隼人さんが言ってくれた……
“守るから”って)
その言葉を胸に抱いて、
由奈は会社のエントランスに入った。
エレベーターを待つ数名の同僚たちが、
由奈の姿に気づいた。
一瞬、空気が固まる。
(……また噂される……?)
由奈の胸がきゅっと縮んだ、そのとき――
「由奈ちゃん!」
明るく声をかけてきたのは、
同僚の佐伯だった。
「おはよう!
大丈夫だった?昨日……」
その笑顔と言葉に、
周囲がざわめいた。
「あ、佐伯さん……
おはようございます……」
佐伯は歩み寄り、
周囲に聞こえる声で言った。
「ちゃんと話したんだけどね、
昨日の“噂”、ほとんど全部デタラメだったみたい」
ざわり、と空気が揺れる。
「えっ、そうなの?」
「抱き寄せ写真って……違ったのか?」
佐伯は堂々と頷いた。
「うん。
あの写真、角度でそう“見えるだけ”。
少なくとも由奈ちゃんは、触れられてもいないよ」
周囲の女性たちが息を呑む。
由奈は思わず肩をすくめたが、
佐伯がそっと背中に手を添えた。
「大丈夫。
あなたは悪くない」
そのひと言が胸に染みた。
さらに、
別の同僚たちが口を開いた。
「……ごめんね、片岡さん。
私、噂を信じちゃって……」
「私も。
“泣いてた”って聞いて……
でもあれ、誰かがわざと広めてたんだって?」
「うん、どうやらね……」
佐伯は周囲を見回し、
少し声を落とした。
「噂の元が“どこから出たのか”も、
だいたい分かったし」
空気が変わった。
ざわ……と小さく波が広がる。
(みんな……気づいてる?
麗華さんのこと……)
でも佐伯は、
あえて名前を出さなかった。
大人のやさしさだった。
由奈は胸の奥が熱くなる。
(もう……
わたしだけが矢面に立たなくていいんだ……)
初めて知る感覚だった。
別の同僚が
おずおずと寄ってきた。
「片岡さん……
あの、昨日のことなんだけど」
由奈が小さく会釈すると――
「……旦那さん、
すごく心配してたって聞いたよ。
ソファで泣いてた片岡さん、
抱きしめてたって」
(……隼人さん……
そんなところまで……見られてたなんて)
由奈の顔が一気に熱くなる。
「な、なんでそれを……!?」
「見てたわけじゃないの!
総務の子が、廊下で“ちょっとだけ”聞こえたって……
すごく優しい声だったって……」
(隼人さん……)
胸が熱くなり、
視界がにじむ。
「……よかったね、片岡さん」
その一言に、
涙がこぼれそうになる。
席につくと、
席の隣の女性が小声で話しかけてきた。
「……あのさ、由奈ちゃん」
「はい……?」
「……
由奈ちゃんは、旦那さんに、
すごく愛されてるんだなって。」
「っ……」
「昨日、
“妻を守ります”って総務に言いに来てたって……
噂になってるよ」
由奈の胸は、
もう涙でいっぱいだった。
(隼人さん……
そんな……)
涙がこぼれそうになるのを
ぐっと堪えたとき――
佐伯がそっと肩を叩いた。
「ね?
もう大丈夫。
あなたは“守られてる側”に戻ったんだから」
由奈は唇を結び、
目の端を指で押さえた。
「……はい……
ありがとうございます……」
佐伯は笑って言った。
「礼なんていらないよ。
“味方がいる”って覚えておいて」
由奈の目に涙が光る。
孤独じゃない。
ひとりで戦わなくていい。
その実感が胸にあふれた。

