夕方のマンション前。
空はオレンジ色から群青へ移り変わり、
街の灯りがひとつ、またひとつと点り始めていた。
隼人は深く息を吸い込み、
ゆっくりと歩を進めた。
(……帰ろう。俺の家に。
“由奈のいる場所”に)
祐真との対峙は終わった。
麗華の仮面も剥がれた。
怒りはまだ喉の奥に残っていたが、
それよりも強く胸を占めていたのは――
由奈に触れたい。
抱きしめたい。
安心させたい。
その願いだけだった。
エレベーターに乗り、
7階の数字を押す。
扉が閉まり、振動が上がっていくあいだに、
隼人は目を閉じた。
(どれだけ怖かったんだろう。
どれだけ泣いたんだろう。
俺がそばにいない間……)
思い出すだけで胸が痛む。
チン――。
扉が開く。
廊下をまっすぐ歩き、
家の前へ。
扉の向こうには――
彼女がいる。
隼人は鍵を差し込み、
ゆっくりと回した。
カチャ。
扉が開いた瞬間、
リビングのほうから小さな影が動いた。
「……隼人さん……?」
震えた声。
隼人が玄関に一歩踏み込んだ瞬間、
由奈は駆け寄ってきた。
スリッパの音も乱れ、
呼吸も不安で揺れ――
次の瞬間。
由奈は隼人の胸に飛び込んだ。
「……っ!
ほんとうに……帰ってきて……
くれた……!」
その声は泣き声に溶けていた。
隼人は驚きに目を見開き、
次に信じられないほど優しく腕を広げる。
「当たり前だ。
帰ってくるに決まってるだろ」
ぎゅっと由奈を抱きしめる。
細い肩が震えていて、
髪が隼人の胸元に触れてくる。
「……こわかった……
今日も、ずっと……
隼人さん、怒って帰ってこないかと……
それとも、何かあって……」
隼人は首を横に振り、
由奈の額に手を添えた。
「馬鹿。
怒って帰らないわけないだろ」
「……だって……」
「俺が誰のところに帰ると思ってるんだ」
隼人は由奈の頬にそっと触れ、
涙を親指でぬぐった。
「帰るのは――
お前のところだ、由奈」
その瞬間、
由奈の瞳から涙が溢れた。
「…………
隼人さん……
本当に……よかった……」
隼人は抱きしめた腕に力をこめる。
(ああ……
守りたい。本気で)
「由奈」
隼人は低く、穏やかに呼ぶ。
「今日な……
祐真とも、麗華とも、全部話をつけた」
由奈は胸元で顔をあげ、
涙のにじんだ目で隼人を見上げる。
「……っ……何か……言われませんでしたか……?」
隼人は一度だけ苦笑した。
「俺が何を言われてもいい。
でも――
お前が泣かされるのは我慢できない」
由奈の胸がきゅっと締めつけられる。
「隼人さん……
そんな……やさしいこと……言わないで……
泣いちゃう……」
「泣いていい。
由奈の涙は……俺が全部受け止める」
由奈はもう、隼人の胸にしがみつくしかなかった。
隼人は彼女の背を優しく撫でながら、
ゆっくりとソファへ導いた。
二人が並んで座ると、
隼人は肩に手を回し、抱き寄せる。
「これから先、
俺と由奈の間に入ってくるものは、
全部排除する」
「……排除……?」
「当たり前だ。
俺の妻だ」
その言葉に、
由奈はそっと隼人の胸に手を置いた。
「……隼人さん。
わたし……強くなります。
隼人さんの隣に……胸を張って立てるくらい」
隼人は少し目を見開いたが、
すぐに温かい笑みを浮かべた。
「もう十分強いよ。
由奈は、俺の誇りだ」
由奈は涙をこぼし、
小さく笑った。
二人はしばらく、
言葉もなく抱き合っていた。
暖かい。
柔らかい。
帰るべき場所に戻ってきたような安心。
隼人の胸に顔を押し付けながら、
由奈はかすれた声で囁く。
「……隼人さん。
ありがとう。
帰ってきてくれて……ありがとう」
「ずっと、帰るよ。
何があっても」
隼人は由奈の髪にキスを落とした。
――決着の帰宅。
それは、二人の心を
もう一度ひとつに結び直す時間となった。
空はオレンジ色から群青へ移り変わり、
街の灯りがひとつ、またひとつと点り始めていた。
隼人は深く息を吸い込み、
ゆっくりと歩を進めた。
(……帰ろう。俺の家に。
“由奈のいる場所”に)
祐真との対峙は終わった。
麗華の仮面も剥がれた。
怒りはまだ喉の奥に残っていたが、
それよりも強く胸を占めていたのは――
由奈に触れたい。
抱きしめたい。
安心させたい。
その願いだけだった。
エレベーターに乗り、
7階の数字を押す。
扉が閉まり、振動が上がっていくあいだに、
隼人は目を閉じた。
(どれだけ怖かったんだろう。
どれだけ泣いたんだろう。
俺がそばにいない間……)
思い出すだけで胸が痛む。
チン――。
扉が開く。
廊下をまっすぐ歩き、
家の前へ。
扉の向こうには――
彼女がいる。
隼人は鍵を差し込み、
ゆっくりと回した。
カチャ。
扉が開いた瞬間、
リビングのほうから小さな影が動いた。
「……隼人さん……?」
震えた声。
隼人が玄関に一歩踏み込んだ瞬間、
由奈は駆け寄ってきた。
スリッパの音も乱れ、
呼吸も不安で揺れ――
次の瞬間。
由奈は隼人の胸に飛び込んだ。
「……っ!
ほんとうに……帰ってきて……
くれた……!」
その声は泣き声に溶けていた。
隼人は驚きに目を見開き、
次に信じられないほど優しく腕を広げる。
「当たり前だ。
帰ってくるに決まってるだろ」
ぎゅっと由奈を抱きしめる。
細い肩が震えていて、
髪が隼人の胸元に触れてくる。
「……こわかった……
今日も、ずっと……
隼人さん、怒って帰ってこないかと……
それとも、何かあって……」
隼人は首を横に振り、
由奈の額に手を添えた。
「馬鹿。
怒って帰らないわけないだろ」
「……だって……」
「俺が誰のところに帰ると思ってるんだ」
隼人は由奈の頬にそっと触れ、
涙を親指でぬぐった。
「帰るのは――
お前のところだ、由奈」
その瞬間、
由奈の瞳から涙が溢れた。
「…………
隼人さん……
本当に……よかった……」
隼人は抱きしめた腕に力をこめる。
(ああ……
守りたい。本気で)
「由奈」
隼人は低く、穏やかに呼ぶ。
「今日な……
祐真とも、麗華とも、全部話をつけた」
由奈は胸元で顔をあげ、
涙のにじんだ目で隼人を見上げる。
「……っ……何か……言われませんでしたか……?」
隼人は一度だけ苦笑した。
「俺が何を言われてもいい。
でも――
お前が泣かされるのは我慢できない」
由奈の胸がきゅっと締めつけられる。
「隼人さん……
そんな……やさしいこと……言わないで……
泣いちゃう……」
「泣いていい。
由奈の涙は……俺が全部受け止める」
由奈はもう、隼人の胸にしがみつくしかなかった。
隼人は彼女の背を優しく撫でながら、
ゆっくりとソファへ導いた。
二人が並んで座ると、
隼人は肩に手を回し、抱き寄せる。
「これから先、
俺と由奈の間に入ってくるものは、
全部排除する」
「……排除……?」
「当たり前だ。
俺の妻だ」
その言葉に、
由奈はそっと隼人の胸に手を置いた。
「……隼人さん。
わたし……強くなります。
隼人さんの隣に……胸を張って立てるくらい」
隼人は少し目を見開いたが、
すぐに温かい笑みを浮かべた。
「もう十分強いよ。
由奈は、俺の誇りだ」
由奈は涙をこぼし、
小さく笑った。
二人はしばらく、
言葉もなく抱き合っていた。
暖かい。
柔らかい。
帰るべき場所に戻ってきたような安心。
隼人の胸に顔を押し付けながら、
由奈はかすれた声で囁く。
「……隼人さん。
ありがとう。
帰ってきてくれて……ありがとう」
「ずっと、帰るよ。
何があっても」
隼人は由奈の髪にキスを落とした。
――決着の帰宅。
それは、二人の心を
もう一度ひとつに結び直す時間となった。

